Omizu

あなたを抱きしめる日までのOmizuのレビュー・感想・評価

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
4.3
【第86回アカデミー賞 作品賞他全4部門ノミネート】
ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞とクィア獅子賞を受賞し、アカデミー賞では作品賞、作曲賞、脚色賞、主演女優賞(ジュディ・デンチ)にノミネートされた。

原題はシンプルにジュディ・デンチの役名「Philomena」。監督は『クィーン』『危険な関係』のスティーヴン・フリアーズ。この人の作品全部観てるわけじゃないけど、「人を信じること」を逆説的に描く監督なんじゃないのかなと思う。

本作は一種のミステリーで、フィロミナとマーティンは色んな方向に振り回される。軸となる話は結構重くて辛い。

でも絶妙なユーモアを交え、ジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンの演技巧者のお陰ですいすいと観れてしまう。しかもこれだけの話なのに95分にまとめてくるというのは凄い。

マーティンは「人を信じない」人、フィロミナは「片っ端から人を信じる」人、この二人が織り成すロードムービー的掛け合いも面白いし、ラストの着地も悲しくも可笑しい。

これが実話でしかも最近まであったというのだから驚く。

お互い探し求めていたのにそれを隠したというのは許せない。しかもこれクィア獅子賞をとってることからも分かるようにエイズの話でもある。エイズに何の処置もとらなかったレーガン政権で働いていたというのも皮肉だよね。

フィロミナはシスターを赦した。それは「許す」とはまた異なる感情だろう。他人を赦すということは即ち自分も赦されること。

これだけ多層的なレイヤーをまとめあげた脚本、演出は特筆すべきものがある。改めてスティーヴン・フリアーズの職人監督としての力量に感服したし、ジュディ・デンチはやっぱりスゴい。

母を知らずに亡くなった息子の気持ちになるとすごくしんどい。もし時代と国が違えば自分にだってこういうことがあったわけだよね。そう思うとやるせない。

それでも生きていく覚悟をした二人が誇らしくたくましい。とても好きな作品になった。
Omizu

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