シュトルム凸映画鑑賞記録用改め

エレニの帰郷のシュトルム凸映画鑑賞記録用改めのレビュー・感想・評価

エレニの帰郷(2008年製作の映画)
3.8
前作エレニの旅が入手できず、こちらを先に観た。テオ・アンゲロプロスは、三本目の試聴だが、これが遺作とのこと。「ユリシーズの瞳」と同じく、監督自身の分身と思しき映画監督が登場するが、本作ではウィレム・デフォーが演じる。
回想シーンが現在の姿のまま演じられるような、シームレスに遡行し、跳躍する時間の流れの演出は、テオ・アンゲロプロス監督お得意のもののようであるが、中身は完全に理解できるし、深みがある。時間の流れはかように自在なのに、ところが空間については、国境が人間を、恋人を、隔てる。しかし「ユリシーズの瞳」同様、そこに希望はあった。
本作のテーマは帰郷。作品はソ連統治状況のロシアや、ウィーン、アメリカを舞台に展開する。ギリシャから旅立ち、今や共産党の虜囚になっている恋人を救うためにソ連に潜入するが果たせず生き別れになる。長い時間を経ての再会。ギリシャは最後まで作品の舞台として登場することはないものの、だからこそ、いっそう、果たせなかった帰郷に、テオ・アンゲロプロス監督の祖国ギリシャへの愛と望郷の想いを存分に感じる事が出来る。
ブルーノ・ガンツの演技が特に印象深い。「ヒトラー最期の12日間」でヒトラーを演じたり、「ブラジルから来た少年」でチョイ役ながらナチの陰謀を暴いた彼が、今作では共産主義下で辛酸を舐めた老ユダヤ人を演じる。彼はエレニを愛し長年そばに居ながら、決して彼女の最終的な愛を得られない立場にあった。その孤独さと寂しさがよく伝わってくる「陽気な」演技だった。