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春、バーニーズでのericoのレビュー・感想・評価

春、バーニーズで(2006年製作の映画)
3.3
子持ちの女性、瞳と結婚した彰は、ある日家族と出かけたバーニーズで、以前同棲していたゲイバーのママと再会する。理由もわからないままその人のもとから逃げ出したまま、彼が選ばなかった未来が、ふと頭を擡げ始める。

不幸じゃない、でも満たされない隙間が丁寧に切り取られる。そこに、たとえば職場での不穏な空気とか、楽園のイメージとか、自分でも消化しきれない過去とか、が何となく侵食していく。

この、相互の事象に張り巡らされた糸が、決して直接的ではなく、しかし連関していく様子は良いなぁと思った。みんなが漠然と不安定な心を持て余している。それを言葉ではない芝居で見せた、寺島しのぶと倍賞美津子がとりわけ良い。垢抜けない服でぼさっと突っ立っている西島秀俊も良い(彼はちょっとださい位の方がいい!!と思う)。

彰の隙間は、「わからないこと」によってかたちづくられているのだと思うのだけれど、ときどき安易に答えを求めさせるような描写が入ったり、逆に中途半端が過ぎて「わからなさ」にも至らないことがあったのは惜しいなーという印象。

最後の妻からの言葉に、どう反応するか。それはきっと、彰の人生のなかでとてもとても重要。だからあのラストシーンはすごくいいと思った。
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