エソラゴト

007 スペクターのエソラゴトのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
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ダニエル・クレイグのボンド役で4作目、前作『スカイフォール』同様サム・メンデスが監督の今作は、サム・スミスの素晴らしい楽曲をバックに歴代主要登場人物が総出演するオープニングタイトルからもクレイグ版ボンドの有終の美を飾る集大成的意味合いを強く暗示。

初っ端の復活ガンバレルからのメキシコの「死者の日」祭りでのワンカット長回しで心をガッチリ鷲掴みにされ、一瞬にして007ワールドに引き込まれる冒頭のシーケンスは鳥肌モノ。そして直後のグルグル目の回るヘリのスカイアクションも緊張感が持続していていきなり『スカイフォール』越えか⁉︎と思わせる最高なオープニング。
だが…。

正味2時間半。真骨頂の世界各地の目を見張る美しいロケーションと要所要所のアクションシーンの連続で言われる程長くはなく逆にあっという間の2時間。ただ、冒頭の掴みでピークが達してしまった為か、後半に向かうにつれストーリー自体は尻すぼみ感が否めず。

最近少し抑え気味傾向なクリストフ・ヴァルツもシリーズ史上最凶最悪な敵役として「ランダ大佐」張りの大爆発を予告編の佇まいからも大きな期待感を抱いて臨んだものの、意外にアッサリ風味な印象…。もっと観てるこちらが目を背けたくなる位根を上げる位ネチネチクドクドと2人を追い詰めて責め上げて欲しかった。

また物語終盤にも腑に落ちない点が多々あり少々残念に思える場面がチラホラ。特にマドレーヌの行動原理に疑問符を付けたくなる部分があり、まさかの彼女がラスボス?でもそんな訳ない?どっち??あーやっぱり⤵︎な展開には流石にちょっと萎えてしまった。

前述の通りクレイグ・ボンド集大成的な意味合いが強いので、今作鑑賞にあたって『カジノ〜』『慰め〜』はもう一度復習しておくべきだったのは確か。所々記憶が抜け落ちていて、鑑賞後パンフの解説を読んで過去作との繋がりを納得した部分が多く鑑賞中に気付けなくてかなり勿体ないことをしたというのが素直な感想。

とはいえ、シリアス一辺倒だった前作までと比べてコメディ要素も加味されていたり、痛みの伝わる肉弾戦の格闘シーンや、ボンドの一人舞台ではなくチームワークが強化されてる辺りはこの年2015年を賑わせたスパイ映画の集大成でもあるような気がしたし、「007」という老舗の看板は譲れないという気概や底力もヒシヒシと伝わってきたのは事実。

そしていつ見てもダニエル・クレイグのスーツの着こなしは抜群に格好良い。特に今回の出色はオマージュでもある白タキシード、黒の蝶ネクタイに胸元の赤い一輪のカーネーション。またMのダブルスーツもゲキ渋。QのカジュアルセンスもなかなかGOOD。トム・フォードは今回も良い仕事をしていると感じた。



今作で最後と思われていたクレイグ=ボンドも次作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で最終章となるらしい。公開はコロナウイルスの影響で11月に伸びたがとても楽しみ。