エソラゴト

この世界の片隅にのエソラゴトのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
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原作や監督の過去作等一切の予備知識も無いまま鑑賞。第二次大戦前後の広島が舞台という事前知識のみだったので、やはりそれなりの覚悟を持って臨んだのだが、冒頭から良い意味で裏切られた。

文明開化からの流れで西洋文化が自然と溶け込んでいる昭和初期の街並みや喧騒、社会の安寧から来る人々の笑顔や暮らしぶり…。人々の衣食住や喜怒哀楽は時代は違えど今と変わらぬ原風景。それらが鮮やかな色彩と徹底した時代考証により完全再現されており、それだけで目が釘付けとなる。

しかしながらカウントダウン式で示される「あの日」迄の日付の表記には胸が締め付けられる思いに駆られる。途中、それまでの日付表示から「何日前」という表記に変わった途端、すずに大きな試練が待ち受ける…。

この作品で主に描かれているのは何ともない人々の何気ない日常の暮らしそして営み。その市井の人々の「普通」の日常を問答無用に根こそぎ奪ってしまうものの正体は一体何なのか…。人々のありふれた日常を淡々と描く事で直接的ではなく間接的に我々に強く訴えかけてくる。(それは「あの日」の出来事さえも…)

直接的ではないからこそ、鑑賞後も長い時間をかけて心に浸透し、負の「正体」について深く深く考えさせられる。人の肉体的・精神的な痛みに鈍感で、想像力さえも乏しい現代の我々の心に深く鋭くそして静かに突き刺してくる作品。