ロック歌手の夢を諦めたサラリーマン、鈴木良一は職場で周りにバカにされながらも、同僚の寺島裕子に淡い恋心を抱き、冴えない日々を過ごしていた。そんなある日、一匹のミドリガメと運命的な出会いを果たし、彼を「ピカドン」と名付け飼い始めるが…。
「所謂エログロの部分で高い評価を受ける人がなぜ、こんなファンタジーを？」と最初は考えた。「試されてんのかな？」とも。エログロの作品のみ観て「最高」なんて持ち上げてくる人間に「俺はこういうのもやるけど、お前らはそれに対してどう反応するんだ」って言ってる気がした。
そう感じたのは、主人公の姿に監督の影を見たから。最初は周りに評価されず、バカにされ、「これは本当の自分じゃない。本当の俺はスターなんだ」と亀に言い聞かせている。だが、そんな彼がひょんな事から大ブレイクし、スターだなんだと持て囃されるようになる。当然、バカにしてた奴らも手の平返して大絶賛。そうなるともう、誰も信じられなくなって、周りの作った虚像が「本当の自分」に成り代ろうとしてくる。そんな主人公の姿が監督そのものに重なって見える部分があった。
主人公を演じるのは長谷川博己。「地獄でなぜ悪い」の時にも思ったけど、クレイジーな役が非常に良い。プラスとマイナスに両極端で、その歪さがとても気持ち悪い。特に序盤の立ち方、歩き方、コケ方は天才的。
気持ち悪いのは主人公だけでなく、ストーリーも同様。普通のよくあるダメリーマンの話から、いきなり喋る動物や玩具の話をぶち込んでくるキッチュさは個性的過ぎて吐きそう。それを「園子温だから」と割り切って観られるかどうかで評価は分かれると思う。
