Hiiiraiii

紙の月のHiiiraiiiのレビュー・感想・評価

紙の月(2014年製作の映画)
3.7
2014.12.2 渋谷シネパレス

大傑作『桐島、部活やめるってよ』で日本映画界に一代センセーショナルを起こした吉田大八監督の最新作。

演出力がたまらない。
物語が展開するという事は自発的もしくは外部からの何かを受けた登場人物が行動し感情が変化していく事で成り立つ。その一つ一つの出来事の羅列がシーンとして並びおよそ120分という時間を形成する。本作はその羅列するシーンの中で肝の部分の演出が観客の心に残る形で描かれていく。梨花と光太の出会いのシーンや初めて横領した時に効果的使われるスローモーションは映像の綺麗さという見た目以上に梨花の不安定な心を表現しているし、夫との幾つかの時計のシーンは梨花が壊れていく些細な原因になりえている。梨花が夜明けの空で月をなぞりニセモノの月を消した様に全てがニセモノの幸せだと認識しながら壊れゆく結末の裏側では痴呆症の顧客が言う「ニセモノだっていいじゃない、きれいなんだから」という真逆の欲望をも浮き上がらせる。全てのシーンや台詞に意味を深く感じさせ単純でないドラマ作りを吉田大八監督に見せつけられた。

梨花の心の中を台詞として説明する事を極力避けたようにも見えその役割として梨花の天使と悪魔を同じ銀行で働く先輩後輩の行員にその役割を担わせたのも素晴らしい点の一つである。しかし一つ消化不良な点があり、今回の映画の太い幹でもある【施し】の部分が個人的には不明瞭であり過去とのリンクが上手く絡まっていない点がなんとも残念であった。過去に恵まれない海外の子供へ募金を続けていた幼い梨花はお礼の手紙が来なくなった事を亡くなったと勝手に思い込んでいた。しかし梨花の施し無くしても立派に成長し生きている事実を目の当たりにした時の梨花の感情は虚しさだったのか嬉しさだったのか。同シーケンスに含まれる散々施しを尽くした光太すら梨花がいなくても幸せそうな一面が描かれていた。梨花がいう「行くべきところ」とはどこだったのだろうか。もう一回ぐらい映画をみて答えを見つけたいと思います。
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