もものけ

複製された男のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

複製された男(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が大好きなんです。

定期的に鑑賞しております👍

大学で歴史の講義を仕事とするアダムは、ガールフレンドと夜を共にし、大学と家を行き来する毎日を送る平凡な男。
あまり付き合いのない同僚から薦められた映画を、とりあえず借りて鑑賞するが、いまいちピンとこなくて印象は薄かった。
その夜、アダムは夢を見るが、その内容は映画と同じ状況であったが、どうにも気になって夢と同じシーンを再度確認してみると、そこには自分に瓜二つの男が写っていたのだった…。


感想。
イエロー・トーンを強めに暗く発色が鮮やかではない映像ですが、女性の肌の産毛までハッキリと写し出すきめ細かい画質がとても好みで、不条理な作品にはピッタリと思っております。

哲学的ストーリーを得意とするドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの観念的で難解な小説を映画化しており、その独特な雰囲気と吹奏楽器が奏でる不協和音のような音楽で、「マシニスト」のような雰囲気を醸し出して興味を引き立てる演出がとても好きです。

大好きな役者ジェイク・ギレンホールが二役をこなす演技は素晴らしく、相変わらずの高い演技力を披露してくれます。
クエンティン・タランティーノ監督「イングロリアス・バスターズ」で、多才な言語を使って迫真の演技を見せたフランスの至宝メラニー・ロランも、コロコロ変わる表情を見せる印象的な役柄をこなしております。
とにかくメラニー・ロランは美しい女優で、見ているだけでも華になるほど整った顔立ちと表情が素晴らしいです。
もう一人カナダの至宝サラ・ガドンが妻として出演しておりますが、こちらも美しく整った顔立ちで、気の強い家庭を守る女性として素晴らしい演技です。
さすがデビッド・クローネンバーグ監督作品にも出演経験があるほど。
面白いのは世代交代を思わせるかのように元フランスの至宝イザベラ・ロッセリーニも出演している点です。
カナダ人監督がキャスティングにフランス人女優を二人も起用することに、何か意味を感じさせられてしまいます。

ロケーションが素敵で、俳優の住まいの向かいにあるタワーマンションのよじれたデザインが目を引きました。
カナダのトロントに行ってみたくなる作品でもありました。

平凡な男として繰り返す毎日を印象的に描いてから、興味を惹かれて反社会的行為に挙動不審になりながら行動してゆくアダムを、観客側にもゆっくりと丁寧に描いて伝えるので、鑑賞しながら悪いことをしているドキドキ感を与える手法で、臨場感があります。

この作品は、ドッペルゲンガーの存在を描いた作品に見えましたが、人間が持つ他人への成り代わり"変身願望"を描いた作品のように感じます。
そしてそれを男女の"愛"の形に置き換えると、深層心理においては他人とも関係を結んでみたい欲求があることを表しているようにも思えます。

しかしながら難解さと意味深で、突拍子もないラストにこちらも翻弄されてしまい、物語が何を描いているのか分からなくなってきます。

アダムとアンソニーは全くの対照的な存在で、ドッペルゲンガーであれば傷まで同じことはないので、同一人物であることが分かります。
そして"欲望"を描いた作品であれば、それは"変身願望"によって作り出された「複製された男」であって、SFチックなアンドロイドやドッペルゲンガーではなく、"妄想"による存在で二重人格でもありません。

結婚生活で子供が出来て"抑圧"された性欲をフラストレーションに抱えるアダムが、"妄想"の恋人であるメアリーとの情事によって抑えつけていた"欲望"が爆発して、あるべきだった自分というドッペルゲンガーを作り出して"欲望"を果たそうとするが、"抑圧"からくる"理性"が働きより歪んだ"妄想"であるアブノーマリティな部屋へ爆発しそうな"欲望"を解放すべく向かおうとすると、ヘレンに全てを見透かされて"理性"に萎えてしまう浮気者の話というのが「複製された男」という映画なのではないでしょうか。

この行動をとってしまうアダムの深層心理には、未だ干渉してくる母親の強い存在があるマザーコンプレックスを抱えているので、その象徴である"蜘蛛"が度々登場してきますが、ラストでヘレンが変貌した"蜘蛛"は、"抑圧"する母親という存在から逃れられない諦めを表現しているのだと思います。

この単純な男が抱える性欲の"妄想"を、スリラー映画として映像化したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の才能に脱帽です。
"蜘蛛"という不快な見た目を持つ昆虫をモチーフにして、"抑圧"してくる存在への嫌悪感を見事に表現しております。

冒頭の
"カオス(混沌)は未解読の秩序という"
くだりは、この混沌とした内容の作品は、理解してしまえば論理的に説明が出来る話であるという意味です。

心理学を使って深層心理を描いた難解にも思える内容は、一人の男の逃れられない女性からの"抑圧"への諦めを描いた単純なストーリーといえます。

さすがにノーベル賞作家の小説は、小難しい難解さを持っていて見応え満点であり、小難しい作品を好み鑑賞して頭が良くなった気に浸れる"変身願望"を叶えてくれるような作品に、5点を付けさせていただきました!!
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