おらんだ

アメリカン・スナイパーのおらんだのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
3.6
米軍史上最多、160人を射殺した実在のスナイパー、クリス・カイルの半生。「レジェンド」とまで呼ばれるに至った驚異的な狙撃の腕で、彼は多くの仲間の命を救う。しかし一方、標的を射殺する度、彼の心は着実に蝕まれていく。戦場の現実と戦争の中で闇に沈んでいく彼の心を描いた作品。

常に死と隣り合わせの環境の中で狂っていく主人公の姿が印象的。自分がスコープで狙っているのは「守るべき幼い命」か「駆逐すべき敵」か。最初のシーンでその葛藤を描く事で、次第に自己の行いを正当化し、狂気に染まっていく主人公が特徴的に映る。

キャッチコピーは「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」。変わりゆく彼を見る家族の苦悩や、他の家族との対比などを見せることで、戦争とは「数対数」ではなく、それぞれに人生を持った「人対人」なのだと意識させられる。よって戦争の悲惨さ、緊迫感が際立つ。

鬱々とした心理描写とは対照的にエンタメ性の高い銃撃戦も印象的。派手な爆破シーンや、敵軍のスナイパーとの攻防には手に汗握るものを感じた。だがもし、ここの部分だけならば、他のアメリカ賛美の戦争映画と一線を画すことは無かったかと思う。

最後まで観て感じたのは、戦争という物について賛でも否でも、答や考えを持った人間が観て初めて意味を成す映画だという事。でなければ、遠い国でのファンタジーとしてしかその人間の目には映らないだろう。
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