よしまる

劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンスのよしまるのレビュー・感想・評価

3.7
 北欧ブームが本格的になり、2012年にNHKで本国のムーミンパペットアニメがTV放映、当時マリメッコを手がけていた鈴木マサルがオフィシャルデザイナーとして「MOOMIN TRIBUTE WORKS」を発表したことなどでムーミン人気もジワジワと火がつき、2015年のヤンソン生誕100周年には母国フィンランドとフランスの合作でオリジナル劇場用アニメーションが公開された。のが、これ(説明が長いw)。

 高校生の時に小説全巻を読破しムーミン谷の仲間たちの虜になったことがあったので、懐かしい思いを胸に当時劇場へ観に行き、同年あべのハルカスで開催された「ヤンソン展」にも足を運んだ。
 懐かしいといえば90年にTV放映された「楽しいムーミン一家」のオリジナルキャストが15年ぶりに再結集して吹き替えを担当(主役のムーミントロールはコナンより以前、魔女宅キキ直後の高山みなみ)、そりゃあぜひ観なくちゃだし、期待値も半端なかった。

 さて、長くシリーズを重ねた人気作品が映画化される時に、陥る罠がある。ボクはこれを「劇場版症候群」と勝手に呼んでいるw
 簡単に言うと、映画という晴れ舞台に気合が入りすぎて、元のシリーズの設定をひっくり返したり、新しいことをやろうとしすぎるがために本来の良さを見失ってしまうパターン。せっかくいつものノリを楽しみに観に行っているのに、これじゃない感が色濃く出てしまうのだ。

 今作はムーミン一家がいつものムーミン谷を飛び出して、地中海沿岸のリヴィエラへヴァカンスに行くというお話。本作のプロデューサーによると「今までムーミンを知らなかった人に知ってもらえるように」「ムーミン谷以外の場所で、ムーミン一族の特異性を際立たせることで魅力を伝える」のが狙いだったらしい。

 違うだろw

ムーミンをよく知っている人なら、彼らがわれわれ人間の世界から見て常識はずれな行動をして当たり前なのでそれを楽しむことができるが、知らない人にしたら、この不思議な生き物たちはなんでこんなことしてんだろう??て頭に?マークが浮かぶばかりで面白くないんじゃないだろうか。

 テレビのエピソードのひとつ、あるいはTVスペシャル程度ならちょうどいいのかもしれないけれど、記念の劇場版にしてはあまりにガチャガチャとして「ムーミンらしさ」とは程遠い。

 それでも、冒頭の数分間のムーミン谷の情景は筆舌に尽くしがたいほどの静謐さで度肝を抜かれたし、結局は俗世で得たモノは何一つ無駄だったという寓話になっているところもさすがムーミンである。

 なにより、小説の挿絵やコミックス版でヤンソンが手描きしたムーミンのキャラクターや背景を、そのまんま映画の大画面でアニメーションとして拝見できたことは、とてもとても素敵なことだ。