アニマル泉

ゆけゆけ二度目の処女のアニマル泉のレビュー・感想・評価

ゆけゆけ二度目の処女(1969年製作の映画)
5.0
若松プロの屋上で撮影された密室劇で若松孝二の作家性が際立った傑作である。若松は「俯瞰」の作家だ。ほぼ屋上のみが舞台なので俯瞰の風景や屋上の若者たちをさらに俯瞰でとらえるショットが際立っている。若松の「俯瞰」ショットは人物を風景の中に放り出す。若松は「密室」の作家だ。本作が特異なのは屋上という開放的な場所が密室となり監禁になる点だ。少女(小桜ミミ)は輪姦された後も屋上から動かず、少年(秋山未痴汚)が少女に寄り添うからだ。屋上は一歩踏み出せば墜落死する危険な場所であり、大海原に浮かぶ孤島のようである。若松は「海」の作家だ。冒頭の輪姦場面に続く少女の過去の輪姦場面、海辺の波打ぎわで波に巻き込まれながらの荒々しい場面が強烈だ。苦痛の少女のアップを端に置くショットは構図が大胆だ。輪姦犯の一人は小水ガイラ。本作は壊れた水タンクやシャワーや雨など「水」の主題が色濃い。
若松の映画はよく走る。本作も少年、少女、フーテンたちがひたすら走る。少年と少女が地下室まで階段を駆け降りるのを見た目の主観ショットで描く。逆に屋上まで駆け上がるのを一階づつ律儀に重ねていく。若松の登場人物は何かをじっと凝視して行動に移る。何を考えているのか心情は説明されないので判らない。ただ何かをじっと見る視線劇からアクションが起こる。視線の対象がきっかけになるのか、凝視している時間の長さなのか、ケースバイケースのようだ。
少年の秋山未痴汚が素晴らしい。少年も輪姦された過去がありEDのようだ。マザコンである。少女との関係はプラトニックになる。少年は管理人の息子であり部屋には輪姦された相手の死体が並んでいる。少女は題名通り2回輪姦される悲運を被る。父親と近親相姦だったらしい。セリフが詩のようで唐十郎の芝居みたいなアングラなキャラクターだ。いきなり輪姦場面で始まり、場所は屋上なので常に復讐と死が本作の通奏低音となっている。屋上の扉が夜になると施錠されて朝まで開かないという設定が面白い。まさに密室監禁になるので悲惨な輪姦が起きるのだが、立場が逆転すると、少年のフーテンたちへの無差別殺人の凄惨な現場になる。
若松はアップと大胆なロングショットのメリハリが素晴らしい。劇画やスチールや新聞記事のコラージュも多用する。シャロン・テート事件とロマン・ポランスキーの写真がコラージュされている。音楽の使い方も面白い。本作は二晩の物語である。血だらけの若松作品において屋上に翻る無数の洗濯物の輝く白さが眩しい。白黒シネスコ・パートカラー。
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