エソラゴト

ザ・ウォークのエソラゴトのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
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ニューヨーク・マンハッタンにそびえ立つツインタワー(世界貿易センタービル)の両端にワイヤーを掛け命綱無しの綱渡りを敢行したあるフランス人曲芸師の驚愕の実話ー。

主人公のフィリップ・プティはフランス生まれの大道芸人。幼い頃見たサーカスに影響を受け、パリの街頭でジャグリングや綱渡りなどの大道芸で生計を立てている。ひょんな事から世界貿易センタービルの雑誌記事を目にしたフィリップはある「夢」をぶち上げるのだった。まだ建設中で完成もしていないそのビルにワイヤーを掛け綱渡りで渡るという壮大かつ奇想天外なそして狂気に満ちた「夢」をー。

やがて同じストリートパフォーマーの恋人アニーを始め、彼の言うところの「共犯者」が続々と彼の「夢」に共鳴し集まってくる。ビルの下調べや侵入はさながらスパイ大作戦の様相。志し半ばでリタイアする者もいれば、高所恐怖症ながら最後まで彼の一番近くでアシストする者もー。

主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットはフィリップご本人から直々に綱渡りの指導を受け主人公役を熱演。彼の師匠のパパ・ルディも綱渡りだけでなく人生の師として、的確なアドバイスを彼に授ける場面が感動的かつ印象的。

この作品の肝である物語終盤の綱渡りシーンはIMAX3Dで観るとやはり壮観・圧巻・大迫力!予告編のほんの一寸の綱渡りシーンだけで肝を冷やしていた自分だが、本編での彼の堂々としたパフォーマンスの美しさと崇高さ、曇りから晴れたマンハッタンの景色に思わず見惚れてしまい不思議とそこまで手汗はかかず、何とも言えない爽快感が体中を駆け巡ったのだった。

そして当日ビルの最上階でこの「フィリップ劇場」を目の当たりにしていたある1人の警官は後にこう語ったー。


「彼の綱渡りは歩行(ウォーク)ではなく踊り(ダンス)だった…」(ドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』より)


両側から挟み討ちの警官たちをあざ笑うかのように踵を返しながらワイヤー上を行ったり来たり、眼下の見守っている観客に敬意を表したり、鳥と会話したり、寝そべって空を見つめ物思いに耽ったり…その時間はなんとのべ45分間。

フィリップ自身が全編を通してこのストーリーの語り部として我々に語りかけている場所は母国フランスから贈られた「自由の女神」の松明の上ー。正に彼は地上411mの誰にも手の届かない遥かな場所から自由の国・アメリカで誰よりも「自由」を満喫し謳歌していた。その姿を間近で見ていた者が只の綱渡りというよりも歓喜の舞に映っていたのは強ち間違っていないのかもしれない…。

この映画は只の無謀で命知らずなある大道芸人の綱渡りの一部始終だけを描いた作品ではなく、「不可能」へのチャレンジ精神や勇気、「成功」までの用心深さ・慎重さの大切さを教えてくれる映画だと実感。それはR.ゼメキス監督作品に一貫して流れる一人一人の人生への応援歌なのではとも感じる事が出来た。





以下はラストに関するネタバレ






完成直後は空き物件も多く不人気だったと言われる世界貿易センタービル。彼の芸術的パフォーマンスにより入居社数はもとより観光客も大幅に増加し一躍ニューヨークの名物ランドマークになったとも云われる。そんな彼の栄誉を称えビル側からは展望台へのフリーパスが贈られた事がラストで明かされる。


期限はー、"Forever"(永遠)


その文言が事実でなくなった事は観てる我々誰もが周知し叩きつけられている真の現実。それを語るフィリップの表情、その後の消え入りそうなツインタワーの夕景がとても切なく寂し気に映ったのは言うまでもない…。




〈余談〉
20余年前、友人と一度だけ世界貿易センタービルの展望台を訪れた経験あり。自分は高所恐怖症なのだが、そこから見えるマンハッタンの景色があまりにも雄大かつ荘厳だったのでそんな事も忘れるくらい長時間見入ってしまった。あの911の時もリアルタイムでテレビで見ていて只々茫然と画面を見つめていたのを今作のラストシーンで思い出してしまった…。