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ジェラシーのotomisanのレビュー・感想・評価

ジェラシー(2013年製作の映画)
3.8
 女房子を打っ棄って愛人のもとに去ってゆくなんて大層な火宅風景のはずなんだが。そんな悲劇を一瞬燃え立たせて、あの白黒の絵が芝居っ気を押し殺すようにしたのがウソのように、「新しい女」=ルイにむすめ=母親を直列つなぎでケロリとつないだような展開に拍子抜けだ。

 むすめの、「私はもう大人、あなたを束縛しないわ、パパ」というかのような「自由なパパ」観がフワフワと独り歩きし始めるかと思いきや、ああ貧乏役者の日の目も見ないのが、まさに日陰者と問わるべき簒奪者「新しい女」の心を萎びさせるのか?日本なら六畳一間の小さな下宿まどの外には神田川が臭くて黒く澱んでて、あなたのやさしささえヘドの元なんて具合だろうが、なんせ花の場末もパリーだし。

 白く塗ったくった斜め天井の部屋が牢獄のように精神を侵襲する事に人間は逃亡か死かの選択に迫られるわけで、つくづく貧乏女にしか売れない男はつらい。
 で、「新しい女」は新しい男のもとに立ち去り、せっかく誘われたのに金魚のうんこを拒んだルイは残った選択肢を不可避的に受け容れるんだが、さすが人間大国仏蘭西だ。
 自殺のしそこないという奇策で容易に思いを遂げさせないから監督はエライ。ひとたび立ち消えた「新しい女」との切れても消えない赤い糸にもう一本別の「新しい女」が並んでつながるのか?

 始まりの悲劇の様相が本当のウソのように、ほんの一時間前なのに遠い昔の事のように思い返される「自由なパパ」ルイの不自由な実相が、またもケロリと明日を迎えるのに十分な幸せを今も約束されてるかのようで、バカバカしい。さっさと終われとケツを蹴飛ばしたくなる。
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