KouheiNakamura

沈黙ーサイレンスーのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
5.0
かくも長き不在。


巨匠マーティン・スコセッシ監督が実に28年もの時間をかけて温め続けた映画。遠藤周作の名作「沈黙」(恥ずかしながら未読!)を完全に実写化した、信仰をめぐる重厚な人間ドラマ。主演はアンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、リーアム・ニーソンら。浅野忠信、窪塚洋介、イッセー尾形、加瀬亮、笈田ヨシ、塚本晋也ら豪華日本人俳優が脇を固める。

虫たちの鳴く声で幕が開き、映し出されるはこの世の地獄。虐げられる人々をただ見ていることしかできない男。彼の名はフェレイラ神父。この物語のすべての発端となる男だ。そうして始まる、静けさと緊迫感に満ちた怒涛の162分。体感時間は90分ほどだったが、体に残る心地よい疲労感。ほぼ満席の劇場内にはヒリヒリした空気が充満し、咳払い一つするのも躊躇われるほどの緊張感。久しぶりに素晴らしい映画体験だった。

キリスト教について無知な自分でさえも、この物語の持つ圧倒的なパワーに引きずり込まれ心をかき乱された。キリシタン弾圧下の長崎を舞台にした、信仰をめぐる様々な人間模様。キリスト教の在り方についての見解の相違や殉教の捉え方、さらには神の不在や沈黙について3時間弱の中で濃密に語られていく。
とはいえ、決して難しい内容ではない。キリスト教について浅い知識しか持っていない自分でも十分楽しめたぐらいに、話もテーマも分かりやすい。ある程度の時代背景さえ頭にあればいい。この懐の広さもこの映画の特筆すべき部分だろう。

映画としてはまず映像の作り込みが圧巻。ロケ地は台湾だが、日本の長崎の空気を完璧に再現している。黒澤明や小林正樹の作品を彷彿とさせる時代劇特有の間、自然の息遣いを感じさせる映像に酔いしれた。
全編音楽らしい音楽は一切流れないが、虫の鳴き声やさざ波の音や木々の揺れる音など音響効果は完璧にデザインされている。
俳優陣の演技も圧巻。弱くてずるい、しかし強かに生き延びるキチジローを見事に演じた窪塚洋介。クセの強さでキャラクターの内面を表現するイッセー尾形。流暢な英語を操り、飄々とした佇まいを見せる浅野忠信。それぞれに強く印象に残る。

今の時代にも通じる、信じることと生きることについての人間ドラマの大傑作。必見です。
KouheiNakamura

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