あーさん

沈黙ーサイレンスーのあーさんのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
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先延ばしにするのはやめよう!第2弾その4

スコセッシ監督作はたった一作しか観ていなくて(リアルな暴力描写が苦手💦)、それもミュージカル映画"ニューヨーク・ニューヨーク"なので、自分は相当邪道ですな。。
"タクシードライバー"も"ミーンストリート"も"アリスの恋"も"ハスラー2"も"ヒューゴの不思議な発明"も"カジノ"も"最後の誘惑"もクリップしているのに…!(大好きなハーヴェイ・カイテル目当てが多い)
これを機に、少しずつ観ていきたいと思う。(他にもミュージシャンや映画関連のドキュメンタリーもたくさん手掛けていて多才な人である!)

今作は、公開当時からとても気になっていたが、やはり長尺+重めな感じで、なかなか観ることができなかった。
クリスチャンではないが、原作者の遠藤周作が好きで、20代の頃よく読んでいて"沈黙"もその一つ。
とにかく、"パードレ(神父)"そして"転ぶ"という言葉が頭から離れず、振り子のように揺らぐ主人公の苦悩が忘れられない。小説を読んだ時の思いが蘇った。。


江戸時代初期。
幕府によるキリスト教弾圧下、長崎で捕らえられた後、棄教し行方不明になったとされるポルトガル人の宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)を追い、弟子のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルぺ(アダム・ドライバー)は、真実を突き止めるべく、キチジロー(窪塚洋介)という日本人を案内人に、危険を承知で日本へ密入国する。
彼らの見た日本とは、そして、フェレイラの行方は。。


信仰とは何か?
神は本当にいるのか?
いるのなら、何故黙っておられるのか?

とても深くて難解な問いである。
そして、日本というある意味閉鎖的な国の特性。
遠藤周作の小説の世界観を、スコセッシは努めて忠実に描こうとしている。
トム・クルーズ主演の"ラスト・サムライ"を観た時に似た印象を覚えた。
日本人でない監督が撮っているのに、日本という国をよく理解しているなと。
いや、もしかして外からの視点を持ち込むことで、より日本的な側面が強調されているのかもしれないとも思う。

作中フェレイラの"日本で布教することは、沼に植物を植えるようなものだ。決して根付かない"というような台詞があるが、その言葉が違う宗教の国同士がそう簡単に相容れないことを、端的に表しているのではないか?

宣教師やキリシタンの村人達への拷問は、凄まじいものがある。言うことを聞かない者への上からの弾圧は、想像を絶する。
お上に楯突く者を、拷問して死に至らしめても許されていた時代。。近代社会以前のどの国にもあり得たことである。
それにしても、視覚化されるとキツい。
熱湯をかけられたり、磔(はりつけ)のまま海に晒される、逆さ吊り、火をつけて燃やす、手足の自由を奪って海に投げ込む、、よくこんなことができたと思う。。
拷問はスパイ映画でもよく目にするが、こちらの方は見せしめの意味もあるから容赦がない。死んだとしても致し方ない、更には殺すのが目的のような気さえする。

拷問に苦しむ信者達の姿に折れそうになる心と主イエスキリストへの信仰心を天秤にかけ、悩み抜くロドリゴ。
どちらが正しいのか、だんだんわからなくなっていく。。
"パードレ、転べ、転ぶんだ、、"
悪魔の囁きが聞こえる。
だが、それは悪魔の囁きなのか?
信者を本当に思えばこその選択でもあるのでは?

ああ、堂々巡り、、

観ている方も、苦しくて長い時間が続く。
自分だったらどうする?
若い頃の自分は、色んなしがらみに雁字搦めになっていたから、ロドリゴの苦しみが我が事のように思われて、しんどかった。

今の自分は、、
サラッと転んでみせたかと思えば、すぐにロドリゴに告解を求めたりする狡猾なキチジローに近いものを感じてしまう。
生きていく為の進化、なのだと言い聞かせているが。。
しかし、純粋でさえあれば良いのか?
それで許されるのか?
それが正しいのか?

頑張っているのに結果が出ないどころか、更に下へ突き落とされるような苦しみを味わったり、如何ともしがたい人生の瀬戸際を経験してきた私は、いつしか"神はいない"と思うようになっていた。
それは、そう思った方が楽だから。
淡い希望を持てば、そうでなかった時に打ちのめされるだけだ。
沈黙するだけで、助けてくれもしない神など信じていても仕方ない、と。
でも、その一方で大きな括りでの神はいるはずだ、との思いも捨てきれずにいる。
ただ黙っているのではなく、見守って下さっているのかもしれない…という思い。
どこかで、希望は忘れてはいけないという思い。

最後にロドリゴの妻が彼の元に託したものを見た時、私の涙腺は崩壊した。。


ここまで来るのに、こんなに苦しい道のりを通ってこなければならなかった、ロドリゴの安らかに眠る姿に、心から救われた。


スコセッシ監督の、素晴らしい演出に心が震えた。


熱心な村人信者モキチ役の塚本晋也、キチジロー役の窪塚洋介、通訳の浅野忠信、掴みどころのない奉行役のイッセー尾形、、個性派の俳優陣の流石の演技に魅せられた。
アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバーの迫真の演技、リーアム・ニーソンの存在感もそれぞれとても良かった。
(それにつけても日本で見る数少ない外国人のよるべなさ。。トラウマ映画、"シェルタリング・スカイ"を思い出した。)



書きたいことはもっともっとたくさんあるけれど、私の未熟な解釈や語彙ではとてもではないけれど、書き果せる自信がない。


いつかまた、歳を重ねて再鑑賞したら、書けるだろうか。。
あーさん

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