創

野火の創のネタバレレビュー・内容・結末

野火(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

キッツ。


※監督としての塚本晋也も、俳優としての塚本晋也も好きです。


酷く暴力的な映画だと思う。
悲惨さや残虐さをドストレートに投げつけて来るので、ちゃんといろいろ整えて挑まないと、飲み込まれてリアルに具合悪くなる。

あの時のレイテ島の悲惨さ残虐さを煮詰めて煮詰めて、形も骨も、情も神も救いも、
何かも無くなってしまった何かを頭から浴びせられた感じ。

カラーである事によって、顔や軍服や装備や建物の汚さ、原色のジャングルの美しさや夏の日差し、
何より赤が、より残虐に際立っていて、終始怖くて怖くて寒気と冷汗と吐き気が止まらない。

カラーで映像化する事には大きな意味と意義があると思う。

小説を読み直す勇気が無くてもう細かいところを覚えていなくて、
怖い。無理。ごめんなさいだけど気持ち悪い。無理。怖い。みたいなイメージしか覚えてない。
その意味ではめちゃくちゃ原作に忠実だと思うし、文字より映像の方が暴力性が高い場合もある上に、
カラーだからこその生々しさが題材と塚本さんがやりたい事に合ってると思う。

極限までお腹が空くと、あるいは空腹がずっと続くと、極端に思考能力が落ちるんだって。
そうして、なにもかもがよく分からなくなって、どうでもよくなって、
そのうち食べたいという欲求すらなくなって、やれって言われたらやるんだって。
それは倫理的に人道的にどうでしょうか!とか、そんなことはできません!やりたくありません!っていうのは無くなるんだって。
実際にやりたくないことやりたくないって言えた人は少なかっただろうけど、そもそもやりたくない欲も疑問も無くなるんだって。

それは、何度もいろんな戦争のドキュメンタリーでいろんなところの体験者が語っているから、知識としては知ってたし、
まあ科学的に考えても脳も栄養不足だと止まるんだな程度には理解してたけど、こうして突き付けられると、
理解が追いつかなくて、もうゲロしか出ない。


最初に観たのは漫画喫茶だった。
真夏の蒸し暑い日、予定していた飲み会が中止になり、なんとなく早く帰るのが嫌で漫喫に入った。

読みたい漫画があった訳ではないけど、夫が帰るだろう時間に合わせて3時間パックにして、
漫画を探す前に配信チェックしてたら見つけてしまった。
野火という物語も知っていたし、それを塚本さんがものすごい熱意で改めて映画を作ったのも知っていた。

でも、観る勇気をどうしても持てなかった。

たぶん今日の夕飯は食べられなくなるな。というかしばらく食欲どころではなくなるな。
まあ大人2人なんだから、夏バテのフリして軽いもの作っておけば良いか。

室温は寒いほどなのに湿気がすごいブースの中で、視聴開始をクリックして、5分で後悔した。

寒気と冷汗と吐き気の中でこれが漫喫の効きすぎた冷房のせいなのか、この映画の暴力性のせいなのか混乱した。

3時間パックの残りを茫然として、お会計を終えて出た都会の雑踏に涙が出るほど安心した。


で、この夏、CATVの放送を録画しておいて観た。

映画は基本、映画館で観てこそ、その真価を理解できる。と、思っているのだけど、
野火に関してはこれを大きなスクリーンで、整った音響で観る勇気が出ない。

漫喫のモニターでヘッドホンして、自宅の小さなテレビで音量絞ってなんなら字幕を出して。
そうして観ないと怖くて怖くて最後まで観られない気がする。

戦争映画、たくさん観てきたし、これからも観るけど、ほとんどの戦争映画を見た後は吐く。
それでも、観ないといけない焦燥感に駆られて戦争ものと聞けばチェックするようにしている。
そして、観て、たいてい、また吐く。

だから、塚本さんがこの映画を時間がかかってもお金がかかっても、どうしても完成させたかった気持ちも、
カラーで酷く暴力的で、なんにも面白くない、夢か現実か幻覚かよく分からなくて気持ち悪い映画にしたのも分かる気がする。

塚本さんだからできた映画だとも思う。
戦争の暴力を追体験するタイプの映画の中でも、ショックもインパクトも後味も、なにもかもがかなり強い方だと思う。

どうして餓死しないといけなかったんだろ。
どうしてサルを食べるほど追い詰められないといけなかっんだろ。
これは、あの時だけの出来事なんだろうか。今もこれからも、どこでももうこんな事起こってないよね?

考えても考えてもゲロしか出ない。
創