ちゃんちゃん焼き

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのちゃんちゃん焼きのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

軽く観られる映画かなと思っていたらとんでもなかった(いい意味で)。
テーマが重い、というより、感情の起伏を追っていくのがなかなかに神経を使うというか、細かった。
奇抜に思える主人公ディヴィスの行動は最後の方にに来るとようやく理解出来るようになった。ディヴィスは数字ばかりを追う仕事のせいもあって、日常にも妻にも無関心。数字だけで実態がない、結婚はイージーだったからした、といった具合に、豊かな感情が欠落している。そんな折の突然の事故。ディヴィスは涙も流さないのに、チョコレートが出てこない自販機のメーカーに手紙を書き始める。手紙を受け取った女性カレンは、彼の信号を受け取り、物語がすすんでいく。
義父フィル(名前も続柄もフィルというのに笑った。Father in Law)とは折り合いがつかず、会社でもぎくしゃくしている。実の父の分解の助言に従って、ものをどんどん分解していく。初めは分解(きれいにネジなどを並べていく)なのに、次第に破壊行動になっていく。それはディヴィスの感情のゆらぎだったのかもなと思うと感慨深い(手紙の文でメタファーという言葉で出て来るのは、この物語ともリンクしているのだろう。でもメタファーは隠喩なので、象徴という訳語よりは比喩のがいいような気がした)。
妻のメモにも最初は何とも思わないのに(冷蔵庫のメモには笑ってさえいた)、次第に心を取り戻していく。フラッシュバックのように出てきた、お菓子に貼られたEat meなど(ふしぎの国のアリスとは関係ないかもしれないけれど)、ささいなことをディヴィスは思い出していく。最後、日よけのメモ(ディヴィスが丸めてダッシュボード横においたもの)を見て、ようやくディヴィスは感情をあらわにする。ものすごく静かに。その流れが秀逸だった(でも日よけだから、晴れの日はわたしを思い出して、というのはなかなかトリッキーですぐに気づかなかった。わたし、はもちろん妻自身のことだろうけれど、日よけのことなのかもしれない。ちょっとくすっとするメモなのに、と思うと余計に感動した。冷蔵庫のメモも、気づいて、だったけれど、meと書いてあったのかどうかはわからなかった)。
カレンの息子との交流がよかった。彼がいなかったらディヴィスはずっとものを壊し続けていたに違いない。彼もまたディヴィスに出会えなかったらつらい学生生活を送っていただろう。距離のある、カレンとディヴィスの関係もよかった。ナオミ・ワッツは影を背負った女性の役がうますぎる。挿入歌のチョイスがどれも好みだった。ディヴィスが音楽を聴いて踊りだすシーンは最高だった。
エンドロールのディヴィスからのメッセージはわれわれに向けたものだったのだろうか。こちらこそありがとうと伝えたい。