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ブラックパンサーのNUZOOのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.7
観てよかったー!

アフロアメリカンが自分たちの故郷をアフリカに志すその気持ちを、ビジュアルと音楽とで、誰もが楽しんで観られるエンターテイメントに昇華してみせた点で偉業!
ミーハーブラックカルチャー好きの俺でもとんでもなく楽しめたので、アフロアメリカンとしてこれを観たらたまらないと思う。アジア人の自分はそこに本当には入れないというのもまた寂しいのだけど…。

ネーションオブイスラムとかブラックパンサー党とかアフロセントリズムみたいに、アメリカの黒人たち(の一部)が、自分たちを迫害する社会と立ち向かいながら望郷してきたアフリカのイメージを投影したのがこのワカンダなのだと思うけど(幼いキルモンガーの部屋にはパブリックエナミーのポスターが)、そういった分断の思考に留まらずに開かれた方向に立ち上がろうというのは、マーベルみたいな大企業だからこそ出せる大正義メッセージだなーと思った。
他人事みたいに書いたけど、分断を拒む姿勢は今必要だと自分も思っている。

けど、敵として出てくるキルモンガーの言うメッセージにもちゃんと黒人史的な背景と説得力があるのが映画としてすごく良くて、全く嫌いになれないキャラクターだった。
特に、大英博物館に飾られた仮面を「盗んだものだろう」という彼の言葉はまったく否定できないものだし、逆に文化を盗まれないようにだんまりを決め込んできたワカンダへの怒りも方法は別として正しい。それによってティ・チャラも動くことになったわけだし。

国の景観とか、王の継承権をめぐる戦いや、オコエの国への複雑な忠誠は少し『バーフバリ』を思い出させる感じがあった。強く優しい王に忠誠を誓う喜びというのも共通するのかも。

SF要素もまたアメリカのブラックカルチャーとは親和性があって、Earth, Wind & FireとかP-Funkなどに見られる宇宙・未来志向(アフロ=フューチャリズム)は、奴隷として扱われた自分たちの祖先をロボットになぞらえたところからくる発想であるというから、未来文明化したアフリカというのはまさにそのイメージの流れの上にあるのではないかなと思った。

いずれにせよ、ビジュアル、音楽、コンセプトの強度が感じられるさすがの大作でとても良かった。


作品として大好きだった一方で、逆に欠点かなと感じたのは、
カメラが寄って振られるのでアクションが見づらい箇所がいくつかあったこと。
それから、ワカンダの民衆がほとんど現れず、宮廷劇かのようにも見えてしまっていたこと(ここはバーフバリの民衆の出方との大きな違いかも)。
あと、物語の必然ではあるんだけど、世界のアフリカ系を救わなければ、という点では一致してる二人の内ゲバ的な争いには少しだけ無意味さを感じてしまった…でも本当の歴史もそういうのは多いよね。内戦でティ・チャラが部下を意気揚々と惨殺したりしないのはガーディアンズ2でのヨンドゥと違って良かった。オコエとウカビの恋人二人による争いの終結も不思議な感動があったから良しとする。


最後に気になるのは、これをアフリカの人が観たときにどう思うのかということ。
自分たちでなくアメリカによってアフリカの文化が世界に発信されていくことはどう映るのだろう。
やっぱり主言語は英語だし、テーマもアメリカだからこそのもので、あくまでアフロアメリカンへの賛歌としての面が強いのは間違いないと思う。
でも、そういうことを超えて繋がっていこうという映画の姿勢があるわけで、そこはクリアしている問題なのかしら…。仮に日本がアフリカを主題にした映画を作るのとは全く違う背景の作品であることには違いないから。

しかし感動したので黒人史についてもっと勉強したいな。アメリカとアフリカ諸国の外交関係ってどうなっているんだろう…とか。
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