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ヘイル、シーザー!のAirconのレビュー・感想・評価

ヘイル、シーザー!(2016年製作の映画)
3.7
いつものコーエン兄弟の感じ。
一番重要な主張が何かと考えると、主人公の立場に表れている様な、実務とかミクロの複雑さや煩わしさ、個人的な悩みや選択が人間のほとんどで、それが大切だということかと思った。
出てくる宗教や共産主義、資本主義はマクロでしか捉えられない、所詮はそんなものなんだけど、そういうことにも人はこだわっていて、どこか微笑ましい憎めない存在としてそういう人たちが描写されている。

マクロとはつまり、個人の個別具体的な事象に対して具体的に定められているわけではなく、ざっくりとしていて、最大でも十分に抽象度を持ったケーススタディレベルだからこそ、「あるある」として取り入れることができる。
「こういう時はこうしましょう」「こういう格好をしましょう」「これが漠然と良いこと悪いことです」という、「型」があるからこそ、それ自体が「あるある」として取り込める。

そういういろんな人たちを「あるある」的に消費しながらも、たぶん描かれているのは一人の人間の実務なのかな、と。
多くの客体化された視点(=キャラクター、オブジェクト)に翻弄されながらも、主体的な主人公の存在が描かれている。

脚本家たち共産主義者も、「脚本がなきゃ映画はできないのに搾取されている」と、直接的にミクロの主人公の実務の重要性が見えていない。
マクロの不完全さを示す、ミクロとしての主人公。


たぶん観づらさを作っているのは、コーエン兄弟の皮肉の入った教養で、スノッブまではいかないんだけど、ほとんどの日本人は「モーセの十戒」に何が書いてあったのか知らないのでそもそもよくわからないと思う。
共産主義者がどういう主張なのかもわからない。
自分も「ロッキードの引き抜き」がどういう意味なのか、「虚業の対になっているロッキードという皮肉なのかな?」、程度にしかわからない。
犬にエンゲルスって名前つけてるの草とか。
最終的にユダヤ教は茶化しつつも「神」を肯定している感じ。
あの描き方は結構気を使っている感じした。


観やすさ的には、すごく豪華なキャスト。
スカーレットヨハンソンのシーン、そういえば『ビッグリボウスキ』の監督だったな。
チャイニングテイタムの突然かなりしっかりミュージカルやるのも観やすい。
ティルダスウィントン、フランシスマクドーマンドあたりの使い方も良い。
そして、もはや「嫌い」とか嫌な感じすらもあって、謎に存在感だけは強い、ジョージクルーニーの立ち位置の不思議さ。。。
コーエン兄弟にはこういう独特な味があって面白い。
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