KouheiNakamura

怒りのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
5.0
本心は、目に見えない。


吉田修一の同名小説を「悪人」でもタッグを組んだ李相日監督が超豪華キャストが映画化。1年前に起きた残忍な夫婦殺害事件。それから1年後、東京・千葉・沖縄で素性の知れない3人の男が現れる。果たして、彼らは何者なのか?

あらすじだけ読むとミステリー映画のようだが、この映画の主題は「犯人は誰なのか?」というものではない。むしろ「信じる」ということの難しさ、苦しさ、気高さ、痛みを描いたヒューマンドラマなのである。3つのドラマが並行して描かれていくが、それぞれの話が絡み合うことはない。ただ、それぞれの話が根底に持つ強い感情の波を観る側に体感させていく作りなのだ。
映画としては、まずは圧巻の画面構成と撮影が素晴らしい。照明の当て具合から風景の切り取り方、被写体との距離の取り方にいたるまで強いこだわりを感じる。逆に言うと最初から最後まで緊張感に満ちた画面なので、観終わった後はドッと疲れる。しかし、心地よい疲労感だ。
坂本龍一が手がける音楽も映像にしっかり合っている。

そしてこの映画最大の魅力は、やはり超豪華なキャスト陣。それぞれに今までのキャリアで培ったものを活かし、今までには見られなかった表情が垣間見える。
渡辺謙の背中だけで全てを悟らせる凄み、宮崎あおいの慟哭と微笑、松山ケンイチの諦観と不安が入り混じった眼差し、妻夫木聡の哭き顔、綾野剛の生死を超えた佇まい、森山未來の野生動物のような純粋なエネルギー、広瀬すずの痛々しい立ち姿…その他脇役に至るまで、フィルムに刻まれる彼らの鮮烈な芝居がこの映画をグッと真に迫ったものにしている。
しばしば日本映画を揶揄する時に使われる言葉で「最近の役者は叫ぶだけ。泣きわめくだけが演技ではない。」というものがあるが、この映画でも泣き叫び慟哭する場面はある。しかし、この映画のそれは登場人物が自分の抱えきれない感情を発露する時に使われるので嫌味がない。無言の嘆きよりもむしろ鬼気迫るものになっている。また、これらの慟哭があるおかげで物語のテーマもより際立つ。「あなたは、本当に人を信じられるのか?」

観た後数日は引きずる作品ですが、必見です。
KouheiNakamura

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