Fitzcarraldo

クリード チャンプを継ぐ男のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

4.8
まだ映画を一本も撮ったことのない無名時代のRyan Cooglerが、秘かに温めていた企画を、まさにロッキーの如き見事に実現化させたアメリカン・ドリームな作品。

現実の世ではフィラデルフィア美術館の前の階段は"The Rocky Steps"という称号がつき、その傍らにはロッキーの銅像も鎮座し、いわゆる聖地巡礼の場として世界中からファンが集まるフィラデルフィア屈指の観光地と化しているのだが…

その現実世界と、"Rocky"という映画の世界が、
見事に混ざり合ってシンクロするのと同時に、互いに補完し合いながら、うまい具合にクロスオーバーさせていくという作りがもう最高!!

1951年4月19日にアメリカ陸軍元帥のDouglas MacArthurが行った退任演説"Old soldiers never die; They just fade away"「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という有名な言葉があるが、オレが学生の時にバイトしていたラーメン屋さんにいた古株のバイトおじさんが、事ある毎にこのパンチラインを飛ばしていたのをロッキーを見て思い出す…。

オレが学校帰りに出勤して、そのオジサンは早番で朝から働いていてオレと入れ替わりで退勤する時に、挨拶かの如く必ず言っていた…。オレが19歳とか20歳くらいで、いうてもその人はまだ50代前半とかだったと思うけど…

なんかそのオジサンと本作のロッキーから出る哀愁が似てるんだよなぁ…ロッキーは世界チャンピオンまで取ったけど、そのオジサンは玩具業界でヒット商品を作ったけど、上と衝突して左遷させられて…それでラーメン業界という全く異業種で働き続ける。はぁ…あのオジサンにクリード見て欲しいなぁ。

老兵となったロッキーが亡き妻エイドリアンを屋号にしたイタリアンレストランで働いているのもいいよねぇ…飲食店って客として訪れる方はね、すごい楽しいんだけど…受け入れる側はね、これやったことがないと分からないと思うけど、もう毎日毎日ほんと大変。毎日足りないものをチェックして、それを発注なり買い物して…それをホントにジジイになったロッキーがやってるのを見てるだけで、泣けてくる。

車から仕入れた商品を運ぶのも大変そうなほど老いてしまった…あれ?スタローンもマジでもう危ないかも?と本気で心配する。ランボーにロッキーに何があっても不死身で老けないイメージを勝手に思ってた分、あぁ…当たり前だけど、スタローンも普通の人間なのね…と思い返すことに!そう思うと、途端にスタローンに哀愁を感じ始めてしまう。

あんまりロッキーシリーズも好きじゃないんだけど、もう一度ロッキー1を見たくなるし、自分の中で印象が変わるかもしれないほど、クリード最高だった!

ボクシングシーンもロッキーシリーズの中で断トツにいい!ロッキーシリーズはね、ボクシングシーンがプロレスだからねぇ…ちょっと引いちゃうんだけど、クリードはボクシングになってたと思う。

ただね、ラストのコンランとの試合。
先ずEverton FCのホームスタジアムである"Goodison Park"でやる必要ないだろ?いくら王者がリバプール出身でエバートンサポーターだとしてもねぇ…4万の収容人数に、さらにアリーナ席を作れば+1万は余裕で入るだろう…そんな入らねぇだろ?つか2階席からなんて小さ過ぎて見えねぇよ。サッカーグラウンドでボクシングの試合やったことあんのか?いままでに…知らんけど…ないだろ?!なんでそういう余計なことするのかなぁ?

これね、だからグリーンバックで撮影して、観客を合成してるんだけど、それが丸っきり出ちゃってるのがスゲー違和感あるのよ。"ALI"(2001)の撮影監督であるEmmanuel Lubezkiの試合シーンが物凄く良かったんだけど、客席をまっ暗にして落としてしまうという…そうすれば後ろで常にヌケる観客が気にならなくなる。合成してますよ感が凄いんだよ。これがまたノイズになってしまう。どうしても気になるんだよなぁ。リングの周りには当然、本物の人間をエキストラとして入れてるのだが、その人間と合成の境目が気持ち悪いのよ。どうしても無理があるよね…。だったら、ノーランのように段ボールで作るとか、そういう人海戦術でいって欲しかった。


あとMichael B. Jordan演じるアドニスが近所のバイク仲間達と並走するシーン…。フィラデルフィアのストリートカルチャーを敢えて取り入れてるんだろうけど、ダサいだろ?!単純に!ウィリーばっかりしやがってアイツら関係ねぇじゃん!あれはひとりで走ってた方が良かったと思うな。

街の人から愛されてるロッキーを表したかったのか?!そしたら違うやり方がいくらでもあるやろ?エイドリアンでバイトしてるとか…そこで彼のバイクでないと取りに行けない仕入れ先があって、いつも頼んでいるとか…?

みんなで行こうぜー!ってノリがちっと気恥ずかしくもある。


あとラストシーンは欲を言えば、もう少し上から俯瞰のショットが1枚欲しかったな…。二人と階段の全体と街の風景をなぜフレームに入れない?あとピントも二人にいくのではなくパンフォーカスにして欲しかった…なぜここで背景をボカしたのか?ボカす必要ないでしょ?何のために聖地巡礼してるのよ?台詞で、いい景色だとか言わせてるのに…

とは言いながらもベソベソ泣いているのだが…

荻昌弘のロッキー評
「ボクシングが好きか嫌いとか、もうそんなことには関係なく、これは人生"する"か"しない"かというその分かれ道で"する"という方を選んだ勇気ある人々の物語です」

素晴らしい表現。
まさにCreedにも同じことが言えると思う。
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