エソラゴト

アリスのままでのエソラゴトのレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
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若年性アルツハイマーという病いに対して患った本人を含め、夫、子供達のそれぞれの「決断」が物語を通じて描かれる。

言語学者として大学で教鞭をとるアリスは、日常のほんの些細な物忘れから若年性アルツハイマーである事を医師から告げられる。個人的な問題かと思われたその病いに遺伝性がある事も分かり、自分の子供たちにもその事を告白する。

学問や研究に身を注ぐ事で人生の意義や価値を見出し、その事を夫婦として共有してきた彼女が本当に望んでいる事は何なのか…夫として妻の介護で残りの人生を費やす事が彼女が夫自身が本当に望んでいる事なのか。

長女もまたこの病いの検査で陽性反応が出て、将来産まれるであろう子供への不安感で苛まれている。


夫の葛藤や姉弟達の思いを一身に引き受けたのは、人生に対する考え方や生き方に常日頃母アリスと衝突を重ねていた次女のリディアの「決断」。病状が進行する中、次女の母への普段と変わらぬ接し方は家族の誰よりも母の病いを理解しており深い愛を感じた。

母もまた自分とは違う価値観を持つ次女に対して親なりの心配や期待を抱いており彼女に対して一目置いているのは想像に難くないのが分かる。その流れでのラストの母と次女との対話は正に「愛」についてのお話。ここでの場面は大きく心を揺さぶられた。

アリス本人の決断・決意を吐露する認知症学会でのスピーチは感動的で胸がギューッと締め付けられる思い。ただここは直前に次女がアドバイスした通り与えられた原稿を読まず、思いの丈をぶちまけるスピーチだったらもっと感動できたろうなと思えた。(そのアドバイスも忘れてしまったということか…)

また、将来記憶が無くなるであろう自分へ宛てた自分なりの決断を記録した動画を再生するシーンでは「頼むからそれ以上再生しないでくれ!」とここでは胸を掻き毟られる思いだった。

難病物の闘病記でありがちなお涙頂戴物とはまた違った、割と淡々と日常を描いてる為なのか各人の家族の思いがリアルに伝わってくるとても余韻の残る作品だった。