ろ

ブルックリンのろのレビュー・感想・評価

ブルックリン(2015年製作の映画)
4.9

「あなたのためなら何でも買ってやりたい。でも未来は買えない。あなたの望む人生はね」

わたしには故郷と呼べる場所がない。
生まれたのは千葉だけど、育ったのは愛媛、福岡、大阪・・・
その中で一番長く住んでいる土地を故郷と呼ぶには、やはり何かが足りない気がする。

エイリシュはこれまで、アイルランドから出たことがなかった。
「一人で旅立つ感想は?」と聞かれると、
「アイルランドからの手紙はすぐに届く?」と不安げに問い返す。
ブルックリンで働き始めてからも、姉から手紙が届くたびに涙を流した。

訃報を受け、エイリシュはアイルランドに一時帰国する。
独りぼっちになった母は彼女を手放したくないようで、何かと理由を付けて引き留める。
ブルックリンに帰ろうと思いつつ、アイルランドで出会った男性に惹かれていくエイリシュ。
二つの国、二人の男性の間で揺れながら、結局どちらかに落ち着くんだろう、そう思いながら観ていた。

でも、そうじゃなかった。
ニューヨーク行きの船の甲板で、エイリシュはかつての自分自身のような少女からこう問われる。
「ブルックリンへ旅行?それとも移住?」
「どちらも違うわ」
エイリシュはブルックリンに戻った。
だけどもうあの女子寮には住まないだろうし、デパートでも働かない。
夫と一緒に暮らすにしても、これからずっとブルックリンにいるわけじゃない。
彼が見せてくれたあの殺風景な土地に、一から家を建て、会社を設立し、大家族の一員として生きていく。
土地でもパートナーでもなく、自分が望む人生を選んだ彼女を見ていると、故郷は自分で作るものなのかもしれないなと思った。

「いつか太陽が昇るわ。すぐには分からないけれど光が差すの。やがて自然と考えるようになる、新しく出会った人のことなんかを。そして気付くわ、ここに人生があるとね」
ろ