ろ

僕と世界の方程式のろのレビュー・感想・評価

僕と世界の方程式(2014年製作の映画)
5.0

私、自閉症やアスペルガー症候群の話が好きで、よく観るんです。

その理由の一つは主人公と自分を重ねて観ているから。

私は(というか多くの人はそうだと思うけれど)ただのウツではありません。パニック障害や強迫性障害、社交不安障害などいろいろ交ざっています。

電車やバスに乗るのは避けたいし、人混みも苦手。一番嫌なのは美容室に行くこと。もともと苦手だったけれど、ウツになってからますます行くのが億劫になって、今は母に付き添ってもらわないと行けません。。
他にも対面式のテーブルで人と食事や会話が出来ないなど、苦手なことはたくさんありますが、、

中でも困るのは強迫性障害の確認への不安。
例えば、一人で家にいるとき。
ちょっと外に出るにしても、ガスの元栓や窓の戸締り、テレビの電源、エアコン、部屋の電気、そして家の鍵、これらを最低でも3回は確認しないと気が済まなくて、なかなか出発出来ません。

以前TOEICを受けたとき。
あれはマーク式のテストですが、テストの前に名前や受験者番号、生年月日を書かされるんです。その項目がめちゃくちゃ多い。書き終わって一息つくと、試験監督が全体に向けてアナウンス。「名前などの書き漏れが多いので、もう一度確認してください」。そのアナウンスのたびに不安になって、何度も繰り返し確認。その確認作業で疲れてしまって、試験が始まってすぐ寝てしまったんですよね。。

普段の日常生活でも、とても疲れます。
家にいるとなんてことのない生活が、外に出た瞬間 窮屈になる。自分のテリトリーではないから。

今作の主人公ネイサンを観ていると、
あるいはレインマンのレイモンドやシンプルシモンのシモン、マミーのスティーヴを観ていると、辛くて苦しくなる。
とてもよく分かるから。
けれど、目をそらすことは出来ない。
なぜなら彼らの結末を知りたいから。


間違いなんか、どこにもない。

ネイサンは数学オリンピックに出場するため合宿に参加。
初めての外泊に、初めての海外。
そして、いかにも数学オタクなメンバー。
自分よりも、みんなは頭がいいんだ。
ネイサンの不安はどんどん膨らむ。

「あなたは特別な力があるのよ」
ネイサンは幼い頃、両親から言い聞かされてきた。
でも、私は”特別”とは思わない。
確かに、数学の才能はあるだろう。
でもそれは1つの素敵な”個性”だと思う。
特別というと、なんだか人よりも優れているような気がする。
この合宿にはネイサンの他に自閉症の少年がいたが、オリンピックの選考から落ちた彼は「自分は特別と言われてきたのに、人よりも劣っていた」と自らの存在を嘆いていた。
心身ともに傷ついた彼の姿がとても痛々しかった。
特別じゃなくてもいいのに。ただそこにいるだけでいいのに。


今作は愛の物語。
母の愛、父の愛、先生の愛...。

お互いを理解するために、辛い出来事を理解するために、ぶつかり合う。たまに傷がヒリヒリと痛む。
でも、私はその姿に憧れる。
傷つきながらも、一歩踏み出した人はやっぱり輝いていて、いいなと思う。

日常生活には、とても理解できないことが溢れている。
過去も未来も不安で、真っ暗なトンネルの中を進んだり、後退している。理解するなんて、やっぱり難しくて苦しくて、逃げたくなる。

今作の主人公ネイサンは、幼い頃に目の前で亡くなった最愛の父のことが心の傷となっていた。
なぜ父は亡くなったのだろう。
答えのない問いを何度も繰り返し、その日の出来事を思い出す。

それでも主人公を照らす幾つもの光がさす。それは母だったり、時には先生、そしてパートナーであるチャンメイ。

その光を辿って、主人公は歩き出す。



主役のエイサバターフィールドくん。
彼の演技は初めて観たのですが、とても良かった。
怖いから人と話せない。だから自分は誤解されてしまう。本当はこうしたいけれど、なかなか上手くいかない。そんな心情がひしひしと伝わる演技でした。
ろ