KouheiNakamura

ヒメアノ〜ルのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
5.0
今年の邦画ベストはこの作品で決定。

「行け!稲中卓球部」で有名な古谷実の同名漫画を実写化。監督は「さんかく」、「銀の匙」、「麦子さんと」などを手掛けた吉田恵輔。日常の中に潜むちょっと痛くて切ない人間模様をコメディタッチに描くことに長ける映画監督です。そんな彼が今作で挑むのは…サイコスリラーとラブコメの融合。一応「さんかく」でもその片鱗が見える場面はあるのですが、まさかここまで振り切ってくるとは。その振り幅に驚きました。
しかし考えてみれば吉田恵輔監督がこの作品を撮ることは必然だったのかも。というのも、この「ヒメアノ〜ル」の原作者古谷実さんも元々はギャグ漫画家。それが「ヒミズ」を境に日常に潜む闇や狂気を描く作風にシフト。以降はシュールなギャグと殺人が絡むスリラー場面を交錯させる作風に進化していきます。そしてこの「ヒメアノ〜ル」はその集大成と言える作品なのです。
恐怖と笑い、相反するようで実は表裏一体なこの二つの性質を駆使する古谷実さんと吉田恵輔さんが出会うことは必然だったのでしょう。

さて、この映画を観た人は皆口を揃えて言っていることですがやはり言わずにはいられません。
森田剛という役者は凄い。V6のメンバーとしての彼はTVでよく知っていましたが、まさかここまで凄まじい役者だったとは。およそ共感しえない存在である、殺人鬼・森田役に完璧に実在感を与えています。常に半開きの口、身に纏う危うい空気、やや掠れた高めの声、姿勢の悪さ、そして何よりも深い闇を感じさせる目…。息をするように人を殺し、平気で嘘をつく森田がそこにはいました。
もちろん濱田岳、ムロツヨシ、佐津川愛美も素晴らしい演技。彼らの三角関係が愛おしく微笑ましいものであればあるほど、森田による殺人場面が恐ろしさを増します。

またこの映画は前半と後半でガラッと世界が変わる映画でもあります。映画史に残る素晴らしいタイトルバックをきっかけに、ガラリと姿を変える世界。ざらついた映像や不穏な音楽でそれを表現する監督のセンスの良さには脱帽です。久しぶりに心底劇場で興奮しました。

R15指定でも生ぬるいほどにエグい殺人場面があったりするので、簡単にオススメすべきではないのでしょうが…それでも多くの人に観てもらいたい映画です。思わずクスッとくるコメディ場面、目を背けてしまう凄惨な場面、そして…最後には言葉に出来ない不思議な感情が心に残ることでしょう。傑作です。大傑作です。オススメします。
KouheiNakamura

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