〈「不思議の国」の皮をかぶった混沌と憂いのディストピア〉
開始15分、渋滞のシーンがやってくる。1台、また1台と息継ぎなしに映されていく十車十色の車たちは、『ラ・ラ・ランド』の冒頭をも思わせる美しき彩りだが、車に乗っている人々はなんだか皆イライラしている。止むことのないクラクションにこちらも頭がおかしくなりそうだ。
—— そう、本作は我々を狂わせにかかっている!めちゃくちゃ煽られる!
一見すると、カラフルでメルヘンチックな世界。しかし本当は殺伐とした悪夢のような世界だ。不思議の国から来たようなキャラがたくさん登場するのだが、彼らは皆化けの皮をかぶっている。経済格差がどうだ、搾取がどうだと世を非難している。そんな暴力と悪意にまみれた混沌のおとぎ話に、本作の主人公「裕福そうな夫婦」が呑まれていく。
「おとぎ話の終わり。映画の終わり」
本作はそんな言葉で幕を引く。あれだけ露骨に社会のことを訴えかけておきながら、全部架空のお話だったというのだ。こうした“映画と現実の混同”は、『勝手にしやがれ』のベルモンドをはじめ、ゴダール作品のキーワードとなっているが、この2つが一番奇妙に混じり合った本作に限って「これは映画だ」ときっぱり明示してしまうのだ。
これまでに観たゴダールの作風とはかけ離れていたが、本作がいちばん好きかもしれない。いやぁ狂っていた。