KouheiNakamura

ラ・ラ・ランドのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
5.0
夢の花。


本年度アカデミー賞6部門を制覇したが、作品賞は惜しくも逃したミュージカル映画。監督は「セッション」でその名を知らしめたデイミアン・チャゼル。主演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。

まずは冒頭の高速道路の場面が圧巻。次から次へと起こる映画的な瞬間の連続。カメラは一瞬たりとも見逃すまいと縦横無尽に動き回る。コロコロと変わる歌い手、高らかに宣言されるミュージカル復活宣言。…しかし、ここで歌い踊るのは主人公たちではない。主人公たちと同じような夢追い人たち。そう、この物語はまさに夢追い人たちに向けられたメッセージであることが冒頭で示されているのだ。

そうして、物語の視点はジャズピアニストのセブと女優志望のミアのロマンスに移る。彼らがあまりにも自惚れすぎているから好きになれない、という人もいるだろう。実際二人が一気に距離を縮めるプラネタリウムの場面から夏の場面での二人は完全に夢見心地だ。周りのことなど御構い無しの、二人だけの世界。しかしそんな二人はやがて現実に向き合うことになる…。

前評判があまりにも高すぎたせいか、どちらかと言うと賛否両論になりつつあるこの作品。個人的には圧倒的に賛です。往年のミュージカル映画はもうない。ジャズも滅びゆく音楽だ。しかし、それでも死なせない。そんなチャゼル監督の熱い思いがこもった作品を嫌いになれるわけがない。夢追い人は周りから見ればやっかいな存在だ。好きになんてなれないかもしれない。それでも、それでも僕はミアとセブを嘲笑うことは絶対に出来ない。彼らの魂を、消えていった思いと過ぎ行く時間を何よりも愛おしく思う。

現在放送中のドラマ「カルテット」でこんな言葉が出てくる。「時間は取り戻せないけど、前に進めることは出来る。」
時間の不可逆性を強く感じさせる「ラ・ラ・ランド」のラストシーンとこの言葉は呼応している。
映画は現実を軽々と超えるファンタジーを生み出すことが出来る。とするならば、この映画のラストはまさに最高のファンタジーだ。

人は選ぶかもしれませんが、映画との向き合い方について考えさせられる大傑作です。是非、劇場で。
KouheiNakamura

KouheiNakamura