レオピン

イット・フォローズのレオピンのレビュー・感想・評価

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
4.0
新感覚のホラーであることは間違いないが、同時にジュブナイルの味わいも残す変な作品。

「それ」はついてくる。ゆーっくりと。決して走らない。進撃の巨人の奇行種のように。この大して強そうでもないのだが確実にそこにいる何かから一直線に追われる怖さ。

シンセ音がカーペンターやアルジェントを継いでいる。構図はJホラー、黒沢清や高橋洋。
特に360°パンが効果的に使われていた。うつりこむ怖さ。望遠で写す遠くの何かが「それ」だと気づく時、虫か何かを発見した時のように脳のスイッチがいきなり入る。

町はゴーストタウンと化している。撮影はデトロイト。あちこち廃墟廃屋だらけ。死んでいく町。形あるものはみな滅ぶ。今10代のこの子たちもいずれは年をとる。無常感がハンパない。

襲われるのはたった一人。SEXでうつせるが相手が死ねば再び襲われる。その者が死ねば前のものが襲われる。このさかのぼりのルール。そして直近にうつした相手が襲われる所は前の者にも分かるらしい。

ジェイの友人たち、集まってくれるのは有りがたいがみなやる気がなくて素晴らしい。特に眼鏡女子のヤラ、登場シーンからして屁をこいてます。「ちょっと待って ブッ」かつてこんなにさりげなく屁をかます女性が映画史上いただろうか。浜辺でも一人浮き輪に乗って遊んでるし、ポールの流れ弾に当たって負傷しても入院中のベッドの上で詩なんか読んでる。

またこの子たちはよく眠る。まだ子供だ。ベッドの上で猫のように寝ているヤラと妹。緊張感ゼロの子たち。恐怖を感じる特権はただヒロインにのみ与えられる。

ありったけの電化製品を積んで深夜の学校で決戦の準備。この辺りからジュブナイル色が強くなっていきホラー色はうすまっていったが、プールで襲ってきた「それ」はジェイの父の姿だったと後で分かる。出発時にどういうわけか屋根の上で仁王立ちしていた。そういうことか。父は既に他界していた。この作品、大人の姿はまったく描かれないのだ。

いつも何するでもなく自宅のプールでたゆたっていたジェイ。父の死を受け入れられずにいた。ある種宙ずりモラトリアム。大人になるとはどんな事なのか、化粧台の前でいつも考える。それは「死」と折り合いをつけてそれでも生きること。かけがえのない人は突然いなくなり、町の姿も変わり果てていく。理不尽という暴力を受け入れること。

十代にとっての死と大人にとっての死はインパクトがまるで違う。グレッグが鈍感なのは彼が大人だからだろう。

監督は言っている。愛やSEXは死の恐怖にのみ込まれないための方法だ。愛なんて別に信じなくてもいいかもしれないが、「死」に魅入られそうになった時には有効な手段なのだろう。

なんだやっぱり最後はハッピーエンドじゃん。別にホラーでハッピーエンドでもいいじゃないか。これは『ソウ』のように、たった一度の人生しっかり生きろよ的な教訓ホラー映画だったと思うことにした。二人が手をつないで歩いている後ろについてきていた「それ」はジェイとポールのゆく末をしっかり見守っているのかもしれない。でもどちらかが浮気なんかした日にゃ再び襲ってくるかも。それはそれでイヤだけど。

⇒関連作品:『卒業』、エリオット「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」、ドストエフスキー「白痴」

(2019.7)
レオピン

レオピン