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グランドフィナーレのOotzcaのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
4.6
パオロ・ソレンティーノ作品は初見です

まず冒頭のカットから美しく、全編に渡り、ただ画として美しい、それだけで映画が成立してしまうようなこだわりを感じさせる撮影に感心しました

また音楽や効果音(音響というべきでしょうか)も非常に考え抜かれ、選ばれ、あるべき場所にある感じが素晴らしかったです

ストーリーは、アルプスの高級スパ・ホテルでバカンスを過ごす、引退した指揮者兼作曲家と、彼を取り巻く人々が織り成す、ヒューマン・ドラマといったところでしょうか

敢えて、私は、この作品を、群像劇とは呼びません

何故なら、この作品に於いて、それぞれの登場人物の人生は、時折部分的に重なりこそすれ、交錯していた違う人生が、最後に一つの点で結びつき一本の線となる、というのとは、少しばかり違うように感じたからです

この作品の登場人物は皆、それぞれに過去に捉われ何かしらの傷を持ちながら未来に向けて何らかの形で野心(或いは、欲望)も抱えて、苦悩しながら(実際には、その苦悩は各々が内に秘めたままにしている)、未来(または、生きる為の確信めいたもの)を掴んでいこうとするのですが、あくまでも、それは、個々人がそれぞれにホテルでの日々や出来事を通して、発見していくような構造になっている、と私は思いました

これは、喪失と再生の物語であり、そこに絶望的なまでに断絶された、しかし唯一の希望とも言える手段である、他者とのコミュニケーションの在り方という問題が絡んだ、つまり、人は人に絶望して尚、人を介在することでしか再生出来ないのではないか、という問い掛けだと読みました

なので、所々に登場してくるコミュニケーションのメタファーのような役柄(マッサージ師や娼婦の女の子など)は、実に重要なポイントとなっているようにも思います

それとソレンティーノは、クラシカルとも思わせるような作りの、しかし大胆かつ繊細で実験的な
本作において、映画の過去と未来にまで言及を試みているのですから、その熱量は凄いなと感じさせられました

ラストシーンも非常に美しくて力強く、印象深いですし、ハーヴェイ・カイテルの演技も素晴らしかったですが、例えば、私の大好きな監督ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』のような、ユーモアというか、どうしても喪失と再生を主題にした時に逃れようのない、生と性と死に対してシリアスになり過ぎないような、何かがもう一つあると、満点でも良かったかも知れないですね

時間を経て、反芻して噛みしめる度に味わい深くなる名作だと思いますし、また観たい作品です
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