Naoto

サウルの息子のNaotoのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.2
アウシュビッツ収容所にはゾンダーコマンドと呼ばれる人がいたらしい。

それが、強制的にユダヤ人の同胞達の死体を処理して掃除する為に働かされ、一定期間が過ぎれば自身も処理される人達のことを指すというから恐ろしいことこの上ない。

そして本作の主人公サウルもゾンダーコマンドの1人だというから恐ろしいことこの上ない。

冒頭からいきなりサウルの仕事を見せつけられる。

ナチによって部屋に集められるユダヤ人。
彼らは有無を言わさず虐殺される。
その断末魔の叫びはこの世のものとは思えない凄惨さ。
それをサウルは隣の部屋で待機しながら耳にする。
事が終われば山積する死体を部屋から引き摺り出して、掃除、掃除、掃除。

残虐。
という言葉が優しい言葉に思えるほどの惨状。

そしてその中にいた1人の少年がサウルの息子。
サウルは息子を弔うためにラビ(ユダヤ教の聖職者)を探す。

ラビを探す間、ひたすらサウルの接写&長回し。(「1917」を想像するとわかりやすいかもしれない。)
手ブレも凄いので臨場感は増し、画面には地獄の臭気が立ち込める。
そして背景には累累と連なる死体がまるでそこらへんに転がる備品の様に当たり前に映り込む。
わざわざフォーカスする必要もないと言わんばかりにボカしてすらある。

ナチに見つかるとどうなるか想像に難くないので、息を潜めて隠密の如くラビを探す。

バレて死ぬか、息子を弔った後にゾンダーコマンドの仕事を終えて死ぬか。

これがずーっと続く。
2時間。つらかった。と思えるのは映画だから。
実際に収容されたユダヤ人は2時間どころではないし、つらいどころではない。

その心中を推し量ろうとすれば、悪魔も逃げ出したくなるに違いない。



追記
ラースロー監督は実際に祖父母をホロコーストで亡くしたらしい。
感情0、感動0、リアリズム1000な作りになったのも納得。
感動なんてしてほしくない、何があったかを知ってほしい。
そんな声が聞こえてきそうで、サウル唯一の笑顔が一層の重みを増す。
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