ゆず

サウルの息子のゆずのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
5.0
ホロコーストを強制収容所の囚人の視点から描いた映画。ハンガリー系ユダヤ人の主人公サウルは、囚人で構成されたゾンダーコマンドとして、同胞をガス室に送り、死体を処理する仕事をさせられていた。ある日、息子の遺体を見つけたサウルは、ユダヤ式の葬儀をあげようと収容所の中をラビ(聖職者)を探して歩き回るのだが…。

全編に渡ってサウルに肉迫するようなカメラワークで、だいたい彼の後ろ姿や横顔を近距離から撮影しているのが特徴。
被写体の向こう側にはピントの合わない収容所の様子が見え隠れし、全体の状況は断片的にしか知ることができない。台詞も必要最小限。(そもそも多国籍な環境で、通訳を介さなければ言葉が通じない)
しかし、断片的でも充分すぎるほどの恐ろしい光景ではあり、裸でガス室に入れられる囚人たち、悲鳴、積み上げられた死体…、それらがピンぼけながらも映し出される。そしてそれらを目の当たりにしながらも、もはや嫌悪する素振りも見せない、とっくに慣れてしまったサウルたちの姿もショッキングである。

そんな極限状態の中で、なぜ葬儀にこだわるのか。その答えも安易に提示して感動させたりはしない。
だから勝手に安っぽい答えを探してしまうのだが、やはり人間としての尊厳を守りたかったのではないか。喪った息子の尊厳と、それをきちんと送ることで守られる自らの尊厳と。
しかし戦争は人ひとりの尊厳など容易に踏みにじる。
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