マヒロ

ロブスターのマヒロのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.5
独身者は一定の期間までに配偶者を見つけないと動物に変えられてしまうという世界で、離婚した男(コリン・ファレル)はパートナー探しのために独身者が集められるホテルに連行される…というお話。

ランティモス監督は「変なルールに縛られた人」が好きらしく、この後の『聖なる鹿殺し』では奇妙な少年に提示されたルールに翻弄される家族を、前作の『籠の中の乙女』では父からの家の敷地から出てはいけないという言いつけを守り続ける兄妹が描かれている。
それは今作も然りで、前述の動物ルールもそうだし、配偶者となる人には必ず共通点がなければならないという謎の固定観念から、相手と同じ欠点があるフリをして無理やり結婚まで持ち込んだり、動物に変えられることを拒んで森に逃げ込んだ人たちは、恋愛をしようとする人を厳しく罰するようになったりと、とにかく極端。

この映画に出てくる人は皆コミュニケーションを取り違えて勝手に自分達で設定した制約に苦しんでいるようなもので、そのどうしようもなさを冷ややかに笑い飛ばしている。
ブラック"コメディ"というほど突き抜けて笑いがあるわけでもないし、現実世界を風刺しているように見せかけて実際何か象徴的なものがあるわけでもなく、あえて型にはまることを拒んでいるように思えた。そこが半端だと思う人もいるかもだけど、その冷徹さが個人的には好みだった。『ロブスター』というタイトルの由来だったり、規則を破って自慰をしたせいで公衆の面前で罰を受けるジョン・C・ライリー、何故かサイコパス女に惹かれたコリン・ファレルが必死でサイコのふりをして気を惹こうとするあたりのしょうもなさは結構笑えた。
しょうもないだけでなく、鈍い色に統一された画面作りはかなり格好いいし、神経を逆なでするような弦楽器の音楽も映画にピッタリ調和していた。

ラストは解釈別れるところだけど、共通点が無ければ恋愛してはいけないという固定観念から解放されたハッピーエンドなのか、ルールに縛られたまま「共通点」を得たのか、もしくは最悪の結末を迎えたのか、どうとでもとれるように観客に放り投げるような冷たさが、また素晴らしかった。なぜナレーションがレイチェル・ワイズなのか…


(2019.10)
マヒロ

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