カテリーナ

この世界の片隅にのカテリーナのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
名作誕生に立ち会う幸福感

映画館に入り客席に向かう ほぼ満席の
景色を目を細めて眺める
『スターウォーズフォースの覚醒』以来だ
期待値はうなぎのぼり 身体は火照っていて
熱い
今にも沸騰しそうな私がシートに座っている
この映画は私にどんな感情を齎すのだろう

昭和18年の広島
おつかいを頼まれた
幼いすずが砂利船さんに乗せてもらい川を渡って行く 「ふたば」というお料理屋さんに海苔を届ける役目だ その帰りに兄と妹に買うお土産を思い浮かべて微笑む顔が
何とも愛らしい
そこまで見たところで既に心を鷲掴みにされ涙ぐむ やっと映画を見ることができる
嬉しさも込み上げてくる

前半はやや単調で退屈なのかお隣さんの男性は船を漕ぎ始める
反対側のお婆さんは暗い中でも小さいメモ用紙にしきりにペンを走らせる
「何を書き留めているのかなぁ」
これも満席の映画鑑賞の醍醐味なのだ

とにかくすずさんのおっとりした性格故に
数々の失敗談が可笑しい
お兄さんに出したハガキの返事が来なくて
家族で心配するも お父さんから「すずが
宛先間違うとるかも知れんし」全く信用されていないらしい 隣でそれを聞いてるお母さんも大きく頷く
里帰りしてうたた寝してるすずさんが目を覚まし
「焦ったわぁ呉にお嫁に行った夢見とったわ!」
それを聞いたお母さんに嫌という程ほっぺたをつねられ目を覚まさしたのは言うまでもない
そんな天然なすずさんを見ているとまるで自分の事のように親近感を覚える私

草津の親戚の家で座敷童子とのふれあいはすずの心の優しさをふんわりと描く
天井から顔を出しひょいと降りて来た女の子の着物は
汚れていてあちこち破れている
食べ終わったすいかの皮をシャリシャリと
かじる その様子をジッとみるすずは
すいかを乗せたお盆を急いで運んでくるが
もうその子の姿は見えない
お婆ちゃんが毎年縫ってくれる着物を
その子の為にその場所へ置いておけば
ボロボロの着物を着なくて済むものね
その子の話を家族にしても誰もすずの優しさを褒めなかったのに
おばあちゃんだけは「すずちゃんは優しいねぇ」と頭を撫でてくれた
そして後でこれは伏線だったのだとわかる のだが

極端に食料や物資が不足している中
配給される食料だけじゃ足りなくて
知恵を絞って献立を考えるすずさん
この日常の丁寧な積み重ねにより
より、後半のある場面が残酷に私たち観客に突き刺さるのだ

道に迷った時に助けてもらったリンさんに
すいかやキャラメルの絵を描いてまるで本物みたいに美味しそうと喜んで貰えるほど絵が上手で絵を描く時間が楽しみだったすずさん
防空壕で恐ろしさに身を震わせていた姪っ子の晴美さんにお母さんの絵を描いて安心させていたすずさんに
余りにも残酷な出来事が待っていた
空から降ってくる爆弾に壊されていく街
慎ましく毎日の暮らしを大切に紡いできた
ものを破壊される悲しみや憤り
そして奪われる尊い命 かけがえのない
未来
そしてすずさんの流す大粒の涙

間違いなくやってくるその日を知っている観客たちはなすすべもなくその光を傍観する 何と無力な!
そして更に被爆者のある親子の痛ましい姿

私は
心の中で叫び続ける
この日常を壊さないで
そんな権利は誰にもないのだ

戦時下の市井の人々の無念な想いを綴る
なんと貴重な作品であろうか
エンドロールではこの映画の為にお金を出した3374人の名前がスクリーンいっぱいに次々に流れると一旦落ち着いていた筈の
涙腺が再び崩壊する
彼等のひとりひとりの熱い想いが伝わってくる なんて素晴らしい人達だろう
この瞬間を生涯忘れることはないだろうと確信した
カテリーナ

カテリーナ