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顔のないヒトラーたちのmaverickのレビュー・感想・評価

顔のないヒトラーたち(2014年製作の映画)
4.3
2014年のドイツ映画。1963年にフランクフルトで行われた、フランクフルト・アウシュビッツ裁判までの道のりを描く物語。


ヒトラーによる戦争犯罪を問う作品は数多くあり、人間の尊厳や平和の尊さなど、本作も他と同様に非常に考えさせられる話である。ホロコーストで行われていた凄惨な行いは周知の事実であるが、改めてその残酷さに触れ言葉を失う。この物語は舞台が戦争終結後の1950年代末であり、復興を目指してドイツが立ち直りつつある時期。過去のことは考えたくないと、国も国民もそのことに目を背けていた。若い世代のほとんどはアウシュビッツが何を意味するのかさえ知らない。そんな中で物語は幕を上げる。劇中で主人公は「この事実を国民に広く知らしめるべきだ」と口にする。過去のものとして忘れてはならないのだと。本作が製作された意義も正にそこにあるのだと思う。

主人公は若く熱意のある検事。ナチスの親衛隊だった男が小学校で教師の職に就いていることへの違法性を担当する。ようやく任された大きな仕事に浮かれ、プライベートでは美人な彼女も出来た。この主人公も、最初はこの件がどれだけ重圧のある事案であるかを認識出来なかった。だがホロコーストのことについて調べ、被害者の凄惨な体験を知ることで、それが仕事から使命へと変わる。これを自国の法で裁かずしてどうするという気持ち、それがこの主人公同様に我々にも芽生えるような作りだ。

キャストは全員知らなかったが、みな演技が上手くて引き込まれる。主人公は若い頃のマシュー・マコノヒー似のイケメンでかっこいい。誠実さを感じさせる顔立ちが役柄にぴったりだった。存在感もある。ヒロインもスタイルが良くて美しい。演技力があるからこういう作品に重厚感を与えられるわけであって、ドイツの役者は実力も魅力も兼ねてて本当に素晴らしい。

あの時代、誰も彼もがナチス党員だった。それはそうだろう。異を唱えれば非国民として厳しく処罰された時代。でもだからといって自ら進んで犯罪に加担するのは違う。そういうことだ。


この裁判をきっかけに、ドイツは過去の戦争犯罪に対する認識が大きく変わったという。風化させてしまってはまた同じ歴史を繰り返してしまうかもしれない。だから忘れてはいけないのだと。その使命がこうした作品を生み出し続けている。良い作品であった。
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