もものけ

ハイエナのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

ハイエナ(2014年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

小物は、所詮小物なのよねぇ〜……。

定期的に鑑賞しております👍

ロンドン市警の麻薬捜査官マイケルは、仲間3人と共謀して犯罪組織を取り締まり、金やドラッグを奪う汚職警官。
署からも目をつけられながら、ヤりたい放題していたが、トルコ人殺害事件が起き、マイケルは別の捜査チームへ移動となるのだった…。


感想。
タイガー、ウルフ、スネークなどの王者の風格とヤバさを伴った動物ではなく、"ハイエナ"というタイトルから想像できる通り、自らは戦いはせずに、死肉に群がるハエのような存在である、警察官の主人公が巻き込まれる、クライム・スリラーの傑作です。

かなりのバイオレンス映画であるのに、人気がないのか日本語ウイキペディアすらないマイナー作品であります。
ロンドンが舞台でもあるので、警察官である主人公たちの武器は、派手な銃をぶっ放すアクションではなく、警棒でドカドカ殴りつけるだけの地味さも、人気のなさを引っ張るのでしょうか。

この悪の巣窟と化しているロンドンの凶悪な外国人達が起こす、バイオレンス全開の恐ろしさが魅力的な作品です。

そんな悪と立ち向かう警察官であるはずの主人公マイケルは、"ハイエナ"であるため正義とは遠い存在のゲス野郎でございます。

冒頭からの仲間四人でクラブへ踏み込み、暴れまくってドラッグと金を押収しますが、みんな着服して朝までどんちゃん騒ぎという見事な汚職警官チームです。

そんなマイケルは、嗅覚だけは鋭く、新しいビジネスを始めるためのパートナーを見つけますが、もちろん相手は移民のトルコ人で犯罪者。
なぜかクルドの国旗が掲げられる部屋で、明らかに移民で信用できそうもない男と取引を取り付けますが、突然男は殺されてしまいます。
見られるとヤバいと、そそくさに隠れて、腕を切り落とされ絶命した男を見たマイケルの情けなさったらありません。
泣きはらしながら、逃げていくクズっぷり。
ひたすらヤバいヤバいとビビりまくっている小物っぷりは、とても警官が主人公のスリラー作品には見えません。
このギャップが面白いです。

投資した金を回収するために躍起になり、犯罪組織と手を組んで、捜査チームに加わるや、捜査撹乱に奔走するなど、マイケルがどんどん深みにハマるスリラー・タッチで進行します。
よせばいいのに、警察官としての良心なのか、中途半端に女性を助けようとして、余計に酷い目に合ってしまう女性が悲惨で、アルバニア人犯罪組織の非道っぷりが、より効果的に演出されてます。
ロシア系の犯罪組織は、軍隊崩れやマフィア崩れ、警官崩れなどの落ちぶれた落伍者が多く、政情不安定な国での生活からとはいえ、紛争などで殺しを経験した凶悪な男達が多く、情け容赦しません。

小汚い男たちに身体を売らされる女性たちが、クスリ漬けにされたままヤラれるシーンがショッキングで、目を覆いたくなります。
もう最悪です。
しかもその場所が、割と小綺麗な住宅街という凄まじさで、こんな輩ばかりいる危険な国に行きたくなんてなくなります。
もはや、警察は機能していません。

このアルバニア人ニコラは、美しい妻と、可愛らしい娘すらいるのに、女性を売買する物としか考えていない狂った男で、具合が悪くなるゲス野郎です。

北野武作品じゃないですが、まさに全員悪者と言わんばかりに、見事に出てくるキャラクター達が、顔の怖いことったらありゃしません。

落ち着いた雰囲気のカメラワークと構図がうまく、赤や青や緑のネオン管ギラギラさせて、退廃感を出したり映像センスが良いです。

イギリスに蔓延るドラッグと、人身売買により虐げられる女性達にスポットを当てているので、バイオレンス映画としながらも、社会性テーマが深みを出しています。

街中に溢れかえる移民ばかりで、人通りのど真ん中で堂々と人身売買をするなど、荒廃したイギリスを背景に、移民問題が起こす闇を生生しく描いていて、恐怖を感じます。

作品は、イギリス国家の象徴とも言うべき、法の執行人である警察官が、凶悪な犯罪組織にビクビクして、小さくなって暮らすマイケルという汚職警官を通して、移民で溢れかえって、驚異から小さくなった大英帝国の国民の末路を描いているようにも見えます。

それほど多くありませんが、バイオレンス描写は凄まじく、冗談を言いながら人間を解体する3人が、全身びっしょりと血を浴びて、一仕事終わったなお疲れさんというような、何事もない表情でいるシーンなど、戦慄を覚えます。

仲違いした同僚デヴィッドと和解し、捜査チームで組みながら、犯罪組織を共に牛耳る算段を付けて、意気揚々とアルバニア人に紹介しますが、ここでデヴィッドがいきなり裏切ります。
というか、最初から監査とグルになってハメる気マンマンです。
でも、法としては正義なんですよね。
遺された携帯音声の内容にハメられたと気づくマイケルが、情けなさ過ぎて可哀想すら思えます。
敵味方の裏切りをスリラー演出にしているので、まさかのどんでん返しで面白いです。

汚職で繋がった人間関係など希薄で、あっさり仲間にも裏切られ、ボスには司法を使えないと切られるわで、八方塞がりになります。

更にアルバニア人は、あっさり釈放されてマイケルを待ち構えます。
心臓の鼓動すら聴こえるような、張り詰めた息の詰まりそうになるマイケルを最後に、エンディングとなり、ここが評価が悪い面です。

しかし、この緊張感抜群のラストシーンで、マイケルが取った行動を想像する楽しみが良い場面なのです。

もちろん"ハイエナ"であるマイケルは、所詮小物です。
唯一の人間性を見せた相手は、アリアナだけです。
そのアリアナの窮地を助けに行くでしょうか?

行きません、あんな恐ろしいアルバニア人の罠になど飛び込みません。
"ハイエナ"だから(笑)
そして嗅覚だけは抜群なので。

そんな思考が頭をグルグルと、蛇のように巻き付いて重くなる精神を表した名シーンであるラストに、拍手喝采なのであります。
最後までゲスでいてくれて!

個人的には、そう思えるほどのマイケルの人間性を丁寧に描いた傑作スリラーに、5点を付けさせていただきました!!
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