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シン・エヴァンゲリオン劇場版のtetsuのレビュー・感想・評価

5.0
なんやかんや、気合を入れて、公開初日の朝に鑑賞。


[概要]

2007年からスタートした「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」4部作の完結篇であり、TVシリーズから始まった25年に及ぶエヴァンゲリオンシリーズの集大成。


[雑感]

鑑賞直後に迷いなく称賛できるほど、簡単に噛み砕けるラストではなかったけれど、ポスト3.11映画としても、大人になれなかった子供たちへの映画としても、監督自身の決着をつける映画としても納得。

ある意味、監督が奥さんに対して送った遠回しのラブレターのようにも感じた。


[ポスト3.11映画として]

東日本大震災の1年後、その影響を反映するように、大災害後の世界を描いていたシリーズ前作『……Q』。

それから、9年の時を経て、公開された本作では、やはり、「震災からの復興」というテーマが見え隠れしていたように思った。

まさしく、「復興」を思わせる冒頭のパリ復元シークエンスでは、残り時間の数字に東日本を彷彿とさせる「1103」という文字列が並び、続く、第3村の場面では、震災後を思わせる仮設住宅が立ち並ぶ。

そんな中で、農業を営み、必死に日々の暮らしを生き抜く残された人々の生活は、まさしく、震災後の世界と、そこから、復興へと歩み続けた東北の姿そのもの。

これまでの作品(特に『エヴァンゲリオン』以降)でも、現実から目を背けずに映画制作に取り組んできた庵野監督ならではの視点、そして、復興へと進む物語は、9年という空白があってこそ描くことが出来た物語だったと思いました。


[大人になれなかった子供たちへの映画として]

新劇場版の物語では、前作『……Q』でエヴァンゲリオンに搭乗するメンバーたちが、なんらかの形で「エヴァの呪縛」にかかり、年を取らないようになったことが明らかに。

これは、まさしく、旧劇場版終了以降、約14年間、エヴァに囚われてきた庵野監督自身、そして、ファンの姿が投影されているようにも感じましたが、本作で描かれたのは、その「解放」。

本編では、エヴァの呪縛に縛られなかった多くの主要人物が年を取り、子供まで産んでいる中、主人公・碇シンジが、その呪縛を解くため、最後の戦いに挑む姿が描かれていました。

また、本作におけるエヴァンゲリオンとは、主人公における「母」の存在でもあります。

亡き母の遺伝子が組み込まれていることでエヴァに安心感を抱き、そのクローンである綾波レイに好意を抱く主人公。そして、亡き妻・ユイを生き返らせるため、クローンである綾波レイを創造し、世界の崩壊を起こすことで、妻・ユイにもう一度会うことを望む父・ゲンドウ。

その物語は「エディプスコンプレックスについて」の内容でもあると、よく語られてきましたが、本作においては、親子の戦いの末、主人公の自立が描かれます。

「母性」の象徴であるエヴァンゲリオンと別れを告げ、新たな愛すべき人を見つけたことで、大人としても「自立」した主人公・碇シンジ。

その姿が、「エヴァンゲリオン」という存在に執着し続けた監督自身やファンにも被り、「自立=大人になること」を促すような作品として完成されている点が素晴らしいと思いました。


[監督自身の決着をつける映画として]

TV版と旧劇場版を踏まえた初代シリーズでは、"他者を完全に理解することは不可能だけれど、そんな「気持ち悪い」世界でも、生きなければならない"という、ビターな回答を用意していたようにも感じる本シリーズ。

それは、当時の庵野監督の精神状態や価値観が打ち出されていた内容のようにも思いましたが、それから、数十年を経て、描かれた今回のラストには、人生経験を経たからこその説得力がありました。

口を閉ざしてしまった冒頭の主人公の様子は、まさしく、Qの後、鬱状態に陥ってしまったという監督の姿の反映であり、彼を救った周囲の人々の優しさは、『風立ちぬ』で庵野監督を主演に抜擢した宮崎監督や、『シン・ゴジラ』の企画を持ち掛けた人々のよう。
前シリーズを踏まえて、本当に描くべきラストに辿り着かなければならないという監督の覚悟と決意は、劇中における碇シンジが、自分で自分の落とし前をつけると語ったセリフにも通じていましたし、もはや、エヴァンゲリオンとしての物語が、監督の人生の見事な投影としても、成り立っている部分がすさまじく、胸を打たれる部分でした。


[奥さんへのラブレターとして]

旧シリーズの後の彼を変えた大きな出来事、それは、妻・安野モヨコさんとの出会いでしょう。

本作で描かれていた碇ゲンドウの過去は、もはや、2人の馴れ初めだったのではないかと思うほどに、庵野監督とリンクする内容で、それこそが、旧劇と新劇の大きな変化であり、監督の変化だったのだと思います。

劇中では、第3村における電車図書館の場面で、「オチビサン」「シュガシュガルーン」といった妻・モヨコさんの作品群が登場し、まさしく、他者を代表する存在として、マリがシンジを助け出していく。

そして、ラストシーンでは、監督の故郷・宇部新川駅へと2人が駆け抜けていく光景が描かれます。

この一連の場面には、監督の妻・モヨコさんへの強い感謝が感じられましたし、これまでは、監督自身が自分のために作っていた部分も大きかったエヴァンゲリオンという作品が、愛する妻・モヨコさんへ向けて開かれた物語へと変化したことに感動しました。


[おわりに]

シリーズの完結編としても、監督自身の人生の物語としても、素晴らしかった本作。

それゆえ、シリーズに思い入れのない人が見ると、あっけにとられてしまうような作品だとは思いましたが、自分の人生について改めて考えたくなるという点で、多くの人に鑑賞してほしい一作だと思いました。


参考

庵野秀明 個人履歴 | 株式会社カラー
https://www.khara.co.jp/hideakianno/

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』及びゴジラ新作映画に関する庵野秀明のコメント | 株式会社カラー
https://www.khara.co.jp/2015/04/01/%E3%80%8E%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3%E5%8A%87%E5%A0%B4%E7%89%88%E3%80%8F%E5%8F%8A%E3%81%B3%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9%E6%96%B0-3/
(このコメントが、本作に繋がってる気も……。)

よい子のれきしアニメ おおきなカブ(株) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=uqeU5a6YgCs&t=14s
(ここら辺を観て、臨むだけで、一気に見え方が変わるような気も……。)

『シン・エヴァ劇場版』の高クオリティを実現した、庵野秀明の巧みな経営戦略(倉田 雅弘) | 現代ビジネス | 講談社(1/7)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81066
(9年間のブランクが成功した理由がすごい。)

『シン・エヴァ』、優しい「ネタバレ配慮」がネットに溢れる「独特の理由」【ネタバレなし】(森 功次) | 現代ビジネス | 講談社(1/7)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81119
(ファン心理を見事に分析した良記事。)

『シン・エヴァ』ラストカットの奇妙さの正体とは 庵野秀明が追い続けた“虚構と現実”の境界|Real Sound|リアルサウンド 映画部
https://realsound.jp/movie/2021/04/post-746406.html 
(文句無しで、ベスト・オブ・シンエヴァ評)
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