秋日和

Few of Us(原題)の秋日和のレビュー・感想・評価

Few of Us(原題)(1996年製作の映画)
3.5
この映画を観ている最中、何かの対談でジャン=クロード・ルソーが「字幕というものは全てを理解させようとする。いつもならばハッキリと聞きとれないような言葉に理解を与えてしまうのだ」と言っていたことを思い出した。彼によると、「映画に於いて時に台詞は意味よりも音としての役割を優先的に担う」そう。ああ、成程確かにそういうこともあるかもしれないなとその時はただただ感心するばかりだった。
決して無いわけではないのだけれど、極端に台詞の少ない本作『few of us』を観るとき、人は恐らく普段よりも音に対して敏感になるような気が、どうにもする。例えば馬が走る音、マッチ箱を擦る音、踊りの際に流れる楽しげな音、扉が開く際に軋む音、或いは幾つもの石が転がり落ちる時のコロコロという音……その果てにカテリーナ・ゴルベワが男を殴る時の音やガラスの割れる音、そして銃声音があるのではないだろうか。静かな映画であるからこそ、ありとあらゆる音にハッとさせられる瞬間に幾度も遭遇するのだと、自分は思う。そしてどれだけ強烈な音が発せられたとしても次の瞬間には元の静寂に戻ってしまうのも、映画全体に纏っている儚さと一致していてとても良かった。
では画面はどうなのだというと、『三日間』に比べ少し弱いような気がしたのだけれど、それでも常に一定以上の吸引力(=ショットの強さ)はあったかと思う。それからやっぱりフレーム外への眼差しが素晴らしい。不意に現れるピンク色の花や、画面に漂う煙(ややタルコフスキー?)等は印象的だったし、勿論、バルタスがゴルベワにカメラを向けた全ショットは、文句なしに魅力を放っていた。あと、トナカイがとても可愛かったです。

(追記)
映画評論家の赤坂太輔さんがバルタスのことを「配給業者を悩ます高額の字幕代など一銭もかからない」監督と言っておられました。確かに……。
秋日和

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