優しいアロエ

ポンヌフの恋人の優しいアロエのレビュー・感想・評価

ポンヌフの恋人(1991年製作の映画)
4.2
〈パリのなか、孤立した世界で愛が蠢く〉

 片脚を引きずった男、片眼を失った女、そして廃れたポンヌフ橋。満身創痍で自己満足的な匂いが鼻を突くカラックス渾身の恋愛劇。

 男女ふたりの居場所を大都市パリから切り離し、孤立した世界として提示する。これは『汚れた血』との相似点だと云えよう。パリの概観はあまり見せず、ふたりの周囲に焦点を絞りつづけるのだ。居場所のない人間たちに“居る”ことを許し、ともに再生を遂げていくのがこのポンヌフ橋なのだろう。そして、これはきっと若きカラックスが生きていた狭い世界の象徴なんだとも思う。

 結末も『汚れた血』とのつながりを強く意識させる。今にも離陸せんとしていたビノシュが、本作ではラヴァンとともに『タイタニック』のように宙を裂いてみせる。「アレックス三部作」の系譜からするとハッピーエンドを迎えたのは意外だったが、これはビノシュの提案によって急遽変更されたものだという。原案では河に落ちたところで死を迎えていたのかな。

 相変わらず、いつ好きになったのか・なぜ好きになったのかは説明されない。その説明はカラックス自身が好きな人を撮っているから不要なのだろう。
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