KouheiNakamura

クリーピー 偽りの隣人のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
4.3
厭だ、厭だ、ああ厭だ。
黒沢清監督は厭な映画を撮らせたら右に出る者はいない人だと思う。ピンク映画でそのキャリアをスタートさせ、蛇の道に代表される任侠者なども手がけ幅広く活躍している。しかし、やはり黒沢清の十八番といえば「CURE」や「回路」などのホラー・サスペンス映画だ。凡百のJホラーとは一味も二味も違う、癖のある画面構成。画面の隅々に行き渡る、不吉でおぞましい空気。黒沢清監督はそんな厭な映画を撮る名手だ。それは「トウキョウソナタ」や「ニンゲン合格」のようなヒューマンドラマの中にすら垣間見える。
かくいう僕は「CURE」で黒沢清監督の凄さにハマった口だが、「アカルイミライ」などのヒューマンドラマでさえも黒沢清監督お得意の映像演出の数々で緊張感ある画にしてみせる手腕には舌を巻いたものだ。


「クリーピー 偽りの隣人」はそんな黒沢清監督の新作。未解決の一家失踪事件を追う元刑事、実はその犯人はお隣さんで…。というサイコ・スリラー。黒沢清監督は今作でまさに水を得た魚のように生き生きと演出しているのがこちらにも伝わってきた。奇妙な隣人を怪演する香川照之や徐々に狂気に引きずり込まれていく竹内結子が凄いのはもちろんだが、やはりこの作品の核になるのは主人公・高倉を演じる西島秀俊だろう。一見すると実直で優しい男だが…実は初めから彼の本質は怪物である。
じわりじわりと日常に潜む狂気を描く前半、隣人の正体が明らかになる後半と息をつかせぬ構成は見事。光の当て具合や音楽、エキストラの使い方に至るまで黒沢清監督のこだわりを感じさせる逸品。

この映画でよく批判されるのは、いわゆるリアリティの問題。しかし、個人的にはリアリティの欠如はこの映画ではさほど問題にはならないと思う。黒沢清監督の狙いは現実を超えた、その先を見せることにあるのだから。
オススメです。
KouheiNakamura

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