KouheiNakamura

永い言い訳のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.0
さよならもいわずに。


オリジナル脚本での映画作りに定評のある西川美和監督が、自身の小説を元に映画化。妻が事故死した時に不貞を働いていた男が、妻の死に向き合うまでを描く人間ドラマ。主演は本木雅弘。脇を固めるのは深津絵里、黒木華、竹原ピストル、池松壮亮ら。

グレーの映画だと思った。オープニングから西川美和監督は人物をこれと決めつけることをしない。散髪してもらいながら妻の気遣いのなさを責める夫。しかし、観ている方からすると夫の方がよっぽどつまらないことを気にかけているように見える。西川美和監督はこの気まずい夫婦の時間を、鏡を使った映像表現や音響効果・表情のアップで巧みに描いてみせる。そして、妻が放つある一言。実はこの映画の核心をつくある一言。最後まで見るとわかるが、夫はこの一言に永い時間をかけて向き合うことになる。

女にだらしない男が、子供との交流を通じて成長していく。これだけならよくある人間ドラマだ。しかし、西川美和監督は主人公を安易に成長させることを良しとしない。映画中盤で本木雅弘演じる主人公に池松壮亮演じる編集者のかける言葉はとりわけ強烈だ。子育ては、免罪符。きっと主人公が心の中でうっすら感じていたことだったのだろう。そこから映画は静かに、しかし確実に変調していく。

はっきり言って、主人公は最低の男だ。妻の死に向き合うどころか、自分と向き合うことすら出来ない。それでも、西川美和監督は彼を見捨てない。どこまでもグレーに、その行く末を見守るだけだ。
主人公とは対照的な役柄の竹原ピストルも良い。彼は彼なりにまっすぐに苦しみ、悩み、そしてまた歩いていく。子供達二人の描き方も類型的ではなく、最初は中々懐かないあたりもリアルだ。

決して派手さはないものの、じっくり丹念に人間を描いた秀作。オススメです。
KouheiNakamura

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