ベルサイユ製麺

ヒトラーの忘れもののベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
3.6
…そして、第二次世界大戦終戦直後のデンマークが舞台。ナチスによって海岸線に埋められた何百万もの地雷の撤去にあたらされたのは、同じくデンマークに置き去られたドイツの少年兵士たちでした。
長く語られる事の無かったデンマークの歴史の闇にスポットを当てた作品です。

マチズモと愛国心の権化のようなデンマーク軍の軍曹(ブラシ髭に赤ベレー!)の指揮の下、少年たちは地雷撤去作業を強いられます。一歩間違えば即・死の危険極まりない作業による心労と劣悪な環境での生活に、少年たちは心身ともに疲弊していきます。度重なる事故や終わりの見えない作業に喘ぐ彼らの姿は悲愴という他ありません。しかし、彼らと日々を共にする軍曹の心境にも少しづつ変化がみられるようになります。

鑑賞前は“少年たちの物語”なのだと思い込んでいたのですが、実際にはそれ以上に軍曹≒“戦争で被害を受けた側”の心を描く作品だなと感じました。
〈戦争の、何を真に憎むべきか〉〈敵だった者を赦す事は出来るか〉…誰にでも無関係では無いテーマだと思います。
物語のほぼ全てが同じ砂浜の中で描かれるので一見変化に乏しく感じそうですが、その分丁寧に描かれたひとつひとつの出来事や心の機微がしっかりと伝わってきます。「地味で退屈」なんて事は無いと思います。砂丘を駆けまわる少年たちのドローン撮影シーンなんてもう凄く心が踊りました。撮影は全編落ち着いてて良いです。題材の性質上、目を背けたくなるような場面もあるのですが、下賤な欲求を満たす為のものでは無いのでやむを得ないでしょう。(正直、特殊効果がイマイチなので安心して観れるというのも有ります…)

戦争の傷跡はいつまでも残り続け、ただ人の心の働きによってのみ癒し得ます。
無限にループする戦後の様にも、開戦前夜の狂騒の様にも感じられる、キナ臭さ漂う世界情勢の今だからこそ観ておくべき作品です。時間の無い方は一先ず公式サイトを覗くだけでも有意義だと思いますよ。

ところでこの監督、今作の後の作品が『アウトサイダー』(ジャレット・レト×浅野忠信のNetflix向き極道映画)だそうで…。ふりはば!!!