KouheiNakamura

マダム・フローレンス! 夢見るふたりのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

4.2
嘘の中にもまこと。


フローレンス・フォスター・ジェンキンス。カーネギーホール歴代ナンバー1リクエストの歌姫は、絶世の音痴だった?!驚きの実話を「あなたを抱きしめる日まで」のスティーブン・フリアース監督が映画化。マダム・フローレンス役に名優メリル・ストリープ、彼女を支える夫シンクレア役にヒュー・グラント。

予告の印象でいわゆるストレートな感動作、夫婦愛を描いた作品だと思っていた人は肩透かしを食らうかもしれない。映画開始5分で分かることだが、この映画はかなり難しいバランスで成立している映画だ。その証拠に本国ではほぼ絶賛だが、日本では賛否両論で否定意見も少なからずある。
というのも、話だけ取り上げてみればこの話は決して美談ではないからだ。賄賂を使って事実を隠蔽したりする場面が出てくるし、登場人物たちの大半は何かしらの嘘や秘密を抱えていて一筋縄ではいかない。マダム・フローレンスのやっていることも金持ちの道楽にしか見えない人もいるだろう。
しかし、しかしだ。そんな登場人物たちが気付けば愛おしく、憎めない人物になっている。それこそがこの映画最大の魅力だ。

フリアース監督はいわゆる美談としてこの映画を撮っていない。嘘や秘密を抱えた登場人物たちを、その嘘や秘密ごと愛する。そんな人間の多面性をしっかり描いている。それでいて、彼らのやり方に異を唱える人物がいることも示すところに監督の誠実さが伺える。彼らのやったことは人から見ればあまり褒められたものではないかもしれない。それでも彼女はカーネギーで歌い、人々を笑顔にした。その歌唱力がどんなに酷いものでも。また夫もそんな彼女を心から愛し、支えた。その事実は変わらないのだ。

笑えて少し苦い、大人のための上質なドラマ。オススメです。
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