ヨーク

ノー・エスケープ 自由への国境のヨークのレビュー・感想・評価

3.5
カリコレ2本目です。
映画自体は2015年のもので日本で公開されたのは2017年らしいので今回はリバイバル上映という感じだろうか。わざわざリバイバル上映されるほどの名作なのか? と言われた、う~~~ん、と唸ってしまうがそういう映画もやってくれるのがカリコレの良さ。未体験ゾーンの映画たちもそうだけどミニシアターのイベント上映的なものは放っといたらB級映画の山の中に埋もれていくような作品をかけてくれるのがいいですね。この『ノー・エスケープ 自由への国境』もそう感じでしたね。
んで肝心な部分として面白かったのか? と問われたらそれもまた、う~~~ん、な感じではあるのだが個人的には結構好き。限られた低予算であろう制約の中でなんとか面白い映画にしようという心意気は感じられたので面白いかどうかはともかく好きな映画ではありましたね。
お話はというとぶっちゃけ、移民が砂漠で犬とスナイパーに追われるだけの映画です。映画はトラックの荷台でメキシコからアメリカへと不法移民が運ばれるシーンから始まるのだが、日ごろの整備不良が祟ったのかトラックは砂漠の真ん中で故障してしまい立ち往生。移民たちは徒歩でアメリカ国境を目指すことになるのだがその砂漠には頭のおかしいジジイがいてアメリカに入国しようとする不法移民たちに猟犬をけしかけるばかりかスナイパーライフルで狙撃していくのである。いくら不法移民といえど問答無用で殺すなどもってのほか、しかし一人また一人とキチガイジジイの凶弾に倒れていく移民たち。主人公は無事に生きのびることができるのか…というお話ですな。
まぁ噛み砕いて言うと移民が砂漠で犬とスナイパーに追われるだけの映画である。本当に、マジでそれだけ。まぁ砂漠とは言ってもサハラ砂漠みたいな一面砂の海という感じの砂漠ではなく岩山とサボテンの荒野という感じの砂漠なのだが、その舞台設定が絶妙でいい。周りに何もない砂の海なら即スナイパーの餌食になってしまうだろうが程よい感じに岩山とかがあるのでそれを遮蔽物として隠れることはできる。しかし隠れることができるとは言っても基本的には開けた荒野なのでいつどこから狙われているか分からないという緊張感は維持されるのである。さらに頭のおかしいジジイ・スナイパーがけしかけてくる猟犬が岩山に隠れた移民たちを匂いを頼りに追い立てていくのでつねに移民側は窮地に立たされるのである。この舞台設定が全編にわたって活きており、単純に狙撃手から逃げるというだけのお話しなのに緊張感が持続する。これは低予算の映画としてはかなり上手い作り方だと思いましたね。
とはいえずっと同じような展開だと流石に飽きるので途中緩急を付けるために移民側の反撃とかもあるにはあるのだが、その辺は(いやそうはならんやろ…)というやや強引な展開であったりもしたがそれくらいはご愛敬であろう。他には終盤ややコントじみた画になるシーンもあったが、それはそれで味があってよしという感じだった。いやまぁネタバレしない程度に書くと、最後は大方の予想通りに主人公がスナイパーのジジイに立ち向かいのだが岩山をぐるぐる回りながら反撃のチャンスをうかがうわけになるんですよ。だった相手は銃持ってるし正面からは戦えないよね、っていうそれは分かる。分かるのだが岩山をぐるぐる回りながら追いかけっこする様が主人公(あるいは敵役)の主観的な目線ではなく遠目のロングショットで描かれるんですよ。追ってるつもりのジジイがいつの間にか追われる側になっている、みたいな。これがなんというかね、志村後ろ後ろ! みたいなコント感があるんですよね。引いたカメラで撮ってるせいで攻守が逆転する瞬間がギャグっぽく見えてしまうんだな。そこはもしかしたら狙ってるのかもしんないけど。ま、そこも既に書いたようにある種の味として面白かったですけどね。
ちなみに本作は主演がガエル・ガルシア・ベルナルで驚いたが終演後にプロデューサーがアルフォンソ・キュアロンで監督がキュアロンの息子と知って納得。久々にガルシア・ベルナルを観たがやっぱ格好良かったですわ。俺が大好きな『天国の口、終りの楽園。』の頃と比べたらすっかりおっさんになってしまったが、どことなく少年の面影があるのがいいですね。単に童顔なだけかもしれないが。
ちなみにこれはネタバレではあるものの大事なことなので書いておきますが、犬は死にますがかなりスカッとします。まぁ、期待しすぎずに見ればそこそこは楽しめるのではないでしょうか。ラストシーンにちょっとした詩情があったりして俺は好き。
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