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メッセージのTEPPEIのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.8
ネイティヴスピーカーから邦題をボロクソ言われた今波に乗っているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作であり、全世界のSFファンを虜にした「メッセージ」。実は原題である''Arrival''はどう訳せばいいやら、visitorの訪問者とも言えるし、到着という意味を二重にしているのか。どちらにせよこの原題、元々はベースとなった小説「あなたの人生の物語」と同名になる予定だったがナンセンスだという理由で変わったのだ。
先日興行的には厳しい結果になってしまった「ブレードランナー2049」や「ボーダー・ライン」はヴィルヌーブ節が光る彼の故郷や、細部にこだわったビジュアルが反映されていたがあの特有のブウゥゥンという音は本作でも健在。
率直に言うと監督作の中で最も好きな映画であり、日本のマーケティングで見たらエイリアンとのコンタクトや侵略を彷彿とさせるが、実際はそれよりもかなりレベルの高い映画である。というか、久々に途中で騙されて衝撃的な作品であった。ストーリーは突如世界各地で12隻の謎の飛行物体が現れる所からスタートする。各国の首脳や学問の専門家たちが集結し、それぞれのやり方で未知の存在とコンタクトを取ることになる。言語学者の第一人者であるエイミー・アダムス演じるルイーズは彼らが使う未知の言語を解読し、なぜ彼らが地球へ来たのかを聞き出そうとする…という内容だが冒頭から気が抜けない。しかもアメリカがメインで物語が進行し、保守派の暴動などさりげなく報道で伝えられる前千年王国説を彷彿とさせる、まさに神を信じる国ならではの演出が光っている。何かと本作は「未知との遭遇」や「2001年宇宙の旅」と比較をされているが、そのどれもとは違う、見事差別化に成功した全く新しく、切なく、興奮できる映画になっている。
ハンマーを持っていれば釘しか見えないし、アボリジニにカンガルーを指差してアレは何だといえばカンガルーと答える。でもカンガルーはI don't knowという意味だ。つまり言葉は誤解を生み、誤解は災難を招く。ところどころの脚色がいい味を出しており、台詞回しも秀逸。特に未知の生物との対話シーンは息が止まるのではないかと思えるぐらい緊張感があり、未知の存在との対話がメインであるのだろう…と思っていた。
しかしながら何故本作でエイミー・アダムスとジェレミー・レナーという演技派が起用されたのかが非常によく分かるくらい、人間ドラマとしての出来も素晴らしい。もし未確認飛行物体が飛来すれば、ある国は武力介入を、ある国は交渉を…とリアルな設定と政治背景も絡め、多様性あるコミュニティとそうでない場所の対比も見事。変に哲学的でもなければ、テーマも意欲的でとにかく凄まじいSF映画である。
そんでこれ「2001年宇宙の旅」で起こったショックと似ていて、なにが言いたいかと言うと、大衆向けではあまり無いということ。むしろかなり大衆寄りに仕上げてくれた。伏線の張り方も実にスケールを感じるし、まるで「メメント」を観た時と同じ衝撃を味わっているような気分であった。キューブリック作品というよりかは、ヴィルヌーブ作品を確立させた一本であろう。映像も美しく、美術表現が空間的でありとあらゆる幻想を楽しませてくれる。
本作を劇場で鑑賞したあと、原作にも興味を持って読んでみたのだが読み終わって思ったことは、映画版のほうが完成度が高いのではないかと言う事だ。未確認生物の名前のチョイスや、その他の設定が映画版の方が(演出の問題でもあるが)遊び心もあり、非常に視覚化できている部分、それをあえて台詞で説明していないのもよく分かる。
総評として「メッセージ」はこれまでのヴィルヌーブ作品とは少し違った方向性かもしれないが、僕は本作こそヴィルヌーブ節が詰まった映画であると思っている。なぜならこの余韻は傑作と呼べるSF映画の強烈な決め手であり、構築しているのは他でもない監督自身だからだ。何度も観たくなる。あとエイミー・アダムスはやはり演技上手すぎる。
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