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ボイリング・ポイント/沸騰のTEPPEIのレビュー・感想・評価

5.0
文句なし!面白い!
終映日前に駆け込んで、ようやく鑑賞できた映画業界を騒然とさせた話題作「ボイリング・ポイント」。クリスマス前、ロンドンの高級レストランを舞台に、次々とトラブルに見舞われるオーナーシェフと従業員たちの人間模様をワンカットで描く。

ワンカット映画というと最近のハリウッドでは「バードマン」や「1917」で話題になった手法だが、多くのワンカット映画はワンカットのように見えるように撮影・編集能力を駆使している。ヒッチコックの「ロープ」なんて違和感なくワンショットで物語を進めて、そのスリリングな効果を生むワンカット映画は今日でもクリエイターや観客たちに支持されている。しかし、本作は本当にワンカットで撮影している。正真正銘のノー編集、CG不使用を謳っているように、緊張感溢れる映像が待っている。

フィリップ・バランティーニ監督は自身も長年レストランで働いたことがあり、飲食店の決して誇張とは言えないリアリティと、社会的問題や人間模様を90分に詰め込んでおり、全く無駄がない。もうね様々な人間の背景が気兼ねない会話のやり取りで垣間見えて、レストランの客、マネージャー、フロアとキッチンの伝達不足や互いにリスペクトしているつもりでも、ポジションにはポジションの苦痛や不満が募っていて、すごくリアル。冷蔵庫の温度管理が杜撰な店など山ほどあり、それが高級レストランだろうが一緒。最悪食材の期限チェックだけマストにして、機材管理や衛生管理など二の次な風潮を作り手が理解しているだけあって、隙がない。
「ボイリング・ポイント」とタイトルは様々なミーニングがあり、レストランで働く者たちの「沸点」がいまかいまかと、到達しそうなレストランという名の戦場。

言語の障壁、労働者階級のシェフ、経営陣と移民スタッフ、孤独な人間、人種差別的な客、インフルエンサーぶる客、文化的差違と欧米との対比、こと細かい要素が本当に多い。多いはずなのに、詰め込みすぎていない。観ているこっちがハラハラする観たことない映像体験が用意されている。スリリングで野心的、スー・タウンゼントの本に出てきそうな生粋の労働者階級のイギリス人とエッジの効いたユーモアがノンストップでとにかく面白い。

総評として、「ボイリング・ポイント」は非常に面白いスリリングな作品で、モキュメンタリーを超えて、誰も観たことない映像世界に加えて緊張感溢れるドラマが止まらない。キャストたちの圧倒的な演技力に、社会問題を落とし込んだ脚本が主張を激しくせずに黙々と、じわじわと人々に襲いかかっている。改めて、面白い、文句なし満点💯
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