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デリシュ!のTEPPEIのレビュー・感想・評価

デリシュ!(2021年製作の映画)
4.8
1782年以降15年ほどの期間に誕生したと言われるレストラン誕生秘話を、史実を絡めながら脚色した食がテーマのフランス映画。

良くも悪くも思い出になってしまった。

先週シャンテで鑑賞していたのに、ちょうど1時間くらい経ってブラックアウト。音声だけ響いて真っ暗だけど、観客は何が起こったか分からずとりあえず着席。前方に座っていた、いかにも映画好きそうなおじさんと僕は映写トラブルを伝えるため劇場を出たが、まさかのフロア不在。わざわざ地下からチケット窓口まで走って伝えたのち、マネージャーが出てくるが音声だけ流れっぱなしの放置プレイに憤まんな観客の何人かが「中でとりあえず説明すべきでは?」と憤慨。ごもっともです。第一フロアにスタッフ不在って時点でバイトサボっているだろうし、プロジェクションがすぐに映写止めないのも色々シネコンのスタッフとしてはアウト。結局復旧できず、その日は返金と無料券を渡されたのだった。途中で帰ってしまった人もいたのに、ホームページにすらお知らせしないTOHOシネマズには何とも…残念な気持ち…。オープニングでトラブルを起こして、最初からってパターンはあったけど、開始1時間でしかも起承転結の転の部分で上映できませんはさすがに怒って良し案件だけど、それ以上に途中で観られなくなったショックが大きく、半分意地で翌日鑑賞し直した。ブラックアウトしたシーンが来てハラハラしてしまったが、無事シャンテで鑑賞し終えた。

舞台はフランス革命前夜。宮廷料理人マンスロンは創作料理「デリシュ」をお出しするが、トリュフとジャガイモを使ったことを公爵の食事会で貴族たちに非難され、職を解かれてしまう。彼は料理人を辞めて故郷で暮らし始めるが、謎の女性ルイーズが弟子入りを求めに来た。
すでに各方から絶賛されていた本作がようやく日本公開。18世紀の風俗やフランス情勢、料理が事細かく描かれており、序盤はトルストイの本でも読んでいるかのようにトリュフとジャガイモを悪の産物扱いする貴族たちのキャラ付けや、料理への関心=気品さと媚びへつらう、フランス革命前の貴族の描き方が面白い。監督のエリック・ベルナールは本作を西部劇のような作品にすると意気込んで脚本に着手しているが、まさに料理対王政という対比構造に厨房機器という武器が入って、シンプルな西部劇・逆転劇をドラマに載せて楽しませてくれる。「プチ・ニコラ」といい、フランス映画のユーモアはどちらかと言えばイギリス映画っぽさをスパイスにした、時々ヘンテコなユーモアを見せるのが特徴的だが本作に至ってはフランス映画っぽいユーモアよりも、なんとなくガース・ジェニングス監督っぽいほんわかユーモアがある。

料理映画って結構な確率で面白い作品が多いし、本作の場合、主人公マンスロンと公爵の関係にフォーカスすると思いきや中々期待を上回る展開が用意され、キャラクター同士の関係性が垣間見えるし、演出も細かい。神経質なキャラクターはセリフでなく、時計の針をきちっと合わせるなど行動で性格が分かるし、フランス革命の暗雲や希望の光の対比がきっちり美しい映像で表現されている。
おいしい料理は貴族だけのものではない!と奮起する人々の感動秘話は、非常に味わい深い作品に仕上がっていた。

総評として、「デリシュ!」はタイトルの通り美味しい映画で、丁寧につくり込まれている。楽しいユーモアと考えさせられるドラマも用意され、「戦争と平和」を思わず再読してしまうような…フランス料理片手にフランス文学を楽しみたい…みたいな贅沢なひと時を提供してくれる。
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