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セイント・フランシスのTEPPEIのレビュー・感想・評価

セイント・フランシス(2019年製作の映画)
5.0
先月鑑賞していたのに、忙しない日々が続いており、ようやくレビューができる。せっかくなら時間をかけて、この作品の素晴らしさを伝えたいと思っていたから。
「セイント・フランシス」は今年日本で公開された映画では、間違いなくベスト。
それどころか、ここ数年で最高のインデペンデント作品である。

34歳のブリジットはレストランの給仕として働いていたが、レズビアンカップルの娘であるフランシスのナニーをすることになる。生意気で賢い6歳の女の子と時間をともにするうち、やがてブリジットのなかに何かが芽生える。フランクな関係のボーイフレンドと避妊に失敗し、予期せぬ妊娠をしてしまったブリジット。日本で承認されていない薬品や、中絶に葛藤する女性と、アメリカ現代社会が抱える問題に切り込むだけでなく、真っ当に親と子を描いている。20年代のスコープス裁判以降、明らかに信仰の力は弱まり、それから100年経った現代のアメリカは州や郡でまるで違う国のように、保守勢力とリベラルの対立が顕著で、本作のテーマのひとつである「中絶問題」と「同性愛」は時々見せるユーモアと家父長制に対するアイロニーとなり、中絶は憲法で認められるべき女性の権利であるとアリメカ最高裁が認めた大きな社会的変化をこの映画は実に真っ当に描いている。加えて、主演・脚本を務めたケリー・オサリヴァンは、自らの中絶体験を映画に落とし込んでいる。

子を育むナニーとは対照的に、中絶するというこの対照的な当事者の後悔や背徳感にフォーカスするのではなく、女性の身の周りで後ろ指をさされてきた者たちが抱えてきたタブーを真正面から何か伝えないといけないと、鬼気迫るものがある。ロー対ウェイド判決から覆った大きな変化は、決して命を軽視していたなかで出来たものではない。鑑賞中に浮かんだ「JUNO」。あの作品も日本ではまるで出来た子どもを「モノ」のような扱ったユーモアが賛否を呼んでいたが、本国アメリカでは大絶賛されたことは実に興味深いことなのだ。背信行為とは切って離された道徳的な答えの啓示は、現代では様々な形になる。「セイント・フランシス」はホワイトカラーへの批判とも取れるし、レズビアンカップルとフランシスの未来を最終的に私たちは見守ってこの作品を鑑賞し終えて、一体どんな未来があるか観客に委ねられる。

総評として、「セイント・フランシス」は多角的視点でアメリカ社会を分析し、感動的なドラマと協議すべき論題を観客に与えて、オープンなテーマと素晴らしいメッセージを兼ね備えた傑作であった。満点💯
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