ばーとん

溺れるナイフのばーとんのレビュー・感想・評価

溺れるナイフ(2016年製作の映画)
5.0
原作は瑞々しくも痛々しい恋愛ストーリーだが、山戸結希が映画化した途端、「芸術」がテーマとして浮かび上がってくる。彼女の映画に登場する女性はいつも芸術と恋愛の狭間で揺れ動いている。他でもない山戸自身の姿だ。

菅田将暉が面をつけて踊る姿は芸能の神のようで、彼はモノガタリ内でミューズ的な役割を負っている。夏芽が神からの啓示を受け、平凡な少年とのささやかな幸福と訣別して、乗り越えねばならない障壁の象徴、トラウマとしてのレイプ犯を葬った時、約束の場所である「東京」への扉が開かれる。トラウマは夏芽自身の迷いであり、田舎という土地の呪縛かもしれない。「おとぎ話みたい」と同じで、これは芸術に恋する少女の物語。少女たちはいつだってもっと遠くまで行きたい。

山戸結希はモノガタリの抽象化の天才なのだと思う。水中で溺れて絡み合ったり、椿の赤い花びらが舞い散る映像より、小松菜奈が川沿いをただ歩いているだけのシーンで号泣してしまった。「映画以外は地獄でもいい」とまで言ってしまう、常軌を逸するほどの映画愛がひしひし伝わってきて、堪らない気分になる。時代の先端のさらに一歩先を疾駆する傑作。そのうち時代が追い付いてくるだろう。
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