冷静に見れば精神病院の看護婦に想いを寄せる患者が、自分に都合の良い妄想を語るだけのハナシ。全てが「信頼できない語り手」による妄言に過ぎず、ラストは落雷事故で逝ってしまう。とは言え、それだけじゃあ腑に落ちない奇妙な感覚もある。
クリケットの試合でジョン・ハートがプレイするが、彼は病院スタッフなのかがよく分からない。病院に駆け付けたスザンナ・ヨークが3つの遺体のうちアラン・ベイツにだけ思い入れを示し、ネックレスの一部を取り外すシーンが、妄想と現実の区分をなおさら曖昧にしている。この物語があながち狂人の与太話ではないような余白を残す。映画に答えはないのだろうが、このストーリーすべてが狂人スコリモフスキの妄想ってことだけは事実。