中世の騎士像が撤去されスクエアなるアートスペースに取って変わる冒頭映像で、歴史と伝統文化がキャンセルされ、信頼だの思いやりだの平等だのの現代的価値観に浸食されていく。リベラルの提唱するスローガンは耳に心地良くとも中身の伴わない空虚で自己満足的な概念でしかない。ポリコレに毒された現代人の病理をオストルンドは暴いていく。これが痛快。
ブルジョア連中が宮殿に忍び込んでパーティするくだりは「甘い生活」のオマージュみたい。クレス・バングとエリザベス・モスとのやり取りが最高に笑える。女は権威と寝てメリットを得たいが、男はひたすらリスク回避する。だから決してロマンスに発展しない。広告屋の若者たちが言うように合意形成された「正しさ」はつまらない。モンキーマン・パフォーマンスでもそれが分かる。アートが無害だと思ってるから安心して観ていられるが、いざ自らに危険が及びかねないと分かると、誰も笑っちゃいられない。原始的な暴力に思いやりなどまるで通用しない。終盤は主人公が弱者と向き合おうと決意する美しい展開だが、結局その願いも果たされず終わる、空しいラストもいい。